著者名:植木行宣・田井竜一編『都市の祭礼−山・鉾・屋台と囃子』
評 者:鈴木 正崇
掲載誌:「日本民俗学」246(2006.5)

 本書は二〇〇〇年に設立された京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センターの共同研究に基づく成果である。編者の一人の植木行宣の『山・鉾・屋台の祭り』(二〇〇一)を基盤にして、囃子の研究を拡充し、都市祭礼の理解を深める試みでもあった。内容は三部構成で、第一部の「『はやすもの』と『はやされるもの』」では、植木行宣「山・鉾・屋台の祭りとハヤシの展開」、樋口昭「拍子物とその音楽」で、本書の基本的な考え方が提示される。第二部の「『祇園囃子』と『江戸祭り囃子』」では、二つの囃子をめぐって、田井竜一・増田雄「『祇園囃子』の系譜序論」、増田雄「上野天神祭りの囃子」、入江宣子「江戸祭り囃子とその周辺」、坂本行広「佐原の山車祭りと囃子」、米田実「郷祭りとしての曳山祭礼」、田井竜一「水口曳山囃子の成立と展開」の論考が載る。第三部「地域的な多様性」は、垣東敏博「若狭小浜の祭礼と山車の変遷」、入江宣子「若狭の祭礼囃子の系譜(統)」、大本敬久「四国の祭礼山車」、岩井正浩「徳島県南部の練り風流」、福原敏男「福山の左義長ととんど音頭」、永原恵三「祭礼と観光のダイナミズム」からなり、各地の個性や影響関係が検討される。従来は個別的・断片的であった山・鉾・屋台・囃子の研究を、日本文化史や日本音楽史の立場から総合的に調査・研究を行った点が評価されよう。研究者には、民俗学に止まらず、音楽学・芸能史・歴史学などの専門家が集まっており、アプローチは多様である。しかし、基本となる考え方として、植木行宣のパラダイムが共有されている。その骨子は、第一に山・鉾を「はやされるもの」、それらが動くのをはやしたてる屋台の囃子を「はやすもの」として、その相互関係を重視し、次第に後者が優越してくるという見解である。第二は近世都市文化としての山・鉾・屋台の源流が「練物の祭り」にあるという考え方で、パフォーマンスから造形へという祭りの変化が想定されている。総じて「疫神鎮送の山・鉾の祭り」から「都市の祝祭」への変換が主題である。本書によって、従来は二次的に扱われてきた屋台で演じられる芸能(カラクリも含む)や囃子が注目され、囃子の芸能化も視野に入った。都市祭礼の研究は、社会関係や観光化に焦点をあてる考察が多く、「祭りから祭礼へ」という柳田国男の風流と観客に注目する図式が繰り返し強調されてきたが、芸能や音楽の観点を取り込むと全く異なる歴史的変遷の諸相が見えてくる。今後は囃子の比較研究を推進し、楽器や祭具などモノの変遷を詳細に分析すれば、更なる展開が期待できよう。
 
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