著者名:佐久間耕治著『底点の自由民権運動』
評 者:福井 淳
掲載誌:「自由民権」19(町田市立自由民権資料館 2006.3)


「「民権一二〇年」からの民権研究−批判に学びつつ超える視座−」
 (前略)

 最後に、佐久間耕治著『底点の自由民権運動−新史料発見とバラダイム−』である。
 同書は千葉県を中心とした多様な民権史料捜索や史料紹介全体を、民衆は層や「底辺」でなく、「底点」という孤立した点であるとみる視点で貫いたユニークな一書である。従来の「底辺」に視点を下ろした色川大吉氏の研究を批判し、さらに超えて「底点」に着目された同氏の視点も、「民権一二〇年」を代表する一研究にふさわしいものであろう。事実、「自由民権一二〇年東京フォーラム」では、この「底点」論に秩父事件研究に携わる高島千代氏ほかの賛意や関心が多く寄せられたのである。この「底点」の視点は、民権運動や民衆運動からも排除されたような民衆像を浮き彫りにしているという意味から、運動というもの自体を相対化できる可能性をもっている。この視点がより体系的に発展させられるとともに、具体的、実証的な研究にむすびついて、民権研究の「岐路」を超える理論となることを期待したい。
  (ふくい・あつし/宮内庁書陵部主任研究官・早稲田大学非常勤講師)
 
詳細へ 注文へ 戻る