著者名:大島建彦著『アンバ大杉の祭り』
評 者:小川 博
掲載誌:「歴史研究」(2006.6)

 アンバ様という信仰が常磐地方から三陸方面へと関東内陸部に広がっており、川船の船頭衆や漁師たちに広く信ぜられている。茨城県稲敷郡桜川村阿波字大杉にある大杉神社が中心とされている。ここは古く下野国の二荒山を開いた勝道上人が大和国三輪明神の御分霊を鎮め、水厄難船、疫病防ぎにあたり、安場大杉大明神(あんばおおすぎだいみょうじん)と唱えたという。時代がくだって神仏習合の社として竜華山安穏寺が別当寺となり、源義経の配下の常陸坊海存(ひたちぼうかいそん)が社僧となり霊験を示し、その姿は目は碧く鼻高の天狗であらわれたとされた。今この大杉神社の御分社は百八十社を数えるといわれ、この天狗をつかわして昔はホウソウの病をよけさせたというので、オメンイリといって天狗の面を貸出し、借りた村々では若者が背負い、鳴り物をたたき、あんばばやしをはやして家々をまわりお札をくばったりする。その時節は春さきであり、各地からの参詣者を泊める門前宿もあった。筆者もかつて大杉神社に土浦駅よりバスを乗りついで詣ったことがあった。本書は『西郊民俗』にかかわっている畏友大島建彦氏が平成十五年から十七年にかけて各地のアンバ大杉の祭りをたずねて記録された。今日では大かたの村の人々はかならずしも農業だけでくらしていない状況のもとでアンバさまの祭日を訪ねるのはたいへんであるという。本書は「アンバ大杉の信仰の展開」「太平洋沿岸のアンバ大杉の祭り」(岩手県・宮城県・福島県)「関東平野のアンバ大杉の祭り」(茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県)「房総半島のアンバ大杉の祭り」(千葉県)「アンバ大杉の信仰の実態」の各章よりなっている。それそれの地域は大島氏が調査されているので記録は貴重であり、「アンバ山の野がけ・宮城県気仙沼市安波山」「アンバ祭りと浜下り・福島県いわき市平薄磯」「阿波本宮のアンバまち・茨城県稲敷市阿波」、「大杉さまのあばれ神輿・埼玉県熊谷市葛和田」「新河岸川筋の大杉信仰・埼玉県ふじみ野市下福岡」「都市化の地域のアンバ祭り・千葉県習志野市津田沼」「アンバ山の太郎稲荷・千葉県勝浦市鵜原」「寄りあい祭りと大杉山車・千葉県安房郡鋸南町保田」の各章は筆者のアトランダムなとりあげであるが、他の各章を含めてアンバ大杉の祭りについて教えて頂ける。
 さらに大島建彦氏の編による『アンバ大杉信仰』(岩田書院刊・一九九八年・一一八〇〇円)には第1部阿波本宮大杉神社についてその信仰の展開、第2部信仰の諸資料、第3部信仰圏、第4部大杉神社文書録が収められている。
 
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