著者名:原田敏明著『宗教 神 祭』
評 者:福田 アジオ
掲載誌:「日本民俗学」245(2006.2)

著者の原田敏明が亡くなってすでに二十年になる。原田は『社会と伝承』を二十年間ほぼ独力で刊行し、社会的な側面に注目した論考を毎号掲載し、その方面に関心を有する研究者に少なからず影響を与えた。そして、原田白身も『社会と伝承』に多くの論文を発表したが、それらは通説や常識に疑問を投げかけ、新しい見方・考え方を提示した刺激あふれる論文ばかりであった。その論考は順次課題別にまとめられ、『宗教と民俗』(一九七〇年)、『宗教と社会』(一九七二年)、『村祭と座』(一九七六年)、『村祭と聖なるもの』(一九八〇年)として刊行された。表題が教えてくれるように、研究の中心は宮座とそこに示された神観念であり、日本の神の本質を祖霊とする柳田国男以来の通説を根本的に疑い、批判するものであった。
 原田はその後も著書をまとめる構想があったらしく、残された資料の中に各種原稿を清書し、分類し、袋詰めしてあったという。そのことが分かったのは二〇〇二年で、そこで関係者が原田氏の構想にしたがって編集刊行したのが本書である。本書の編成は、本編が一宗教、二信仰、三神・神社、四神体、五祭、六司祭者、七評論他、八補論、となっており、原田氏の著書には未収録の論文や辞典原稿で構成されている。比較的短いものが多いが、それだけに原田理論が簡潔な文章で手際よく、しかも順序よく示されている。
 第二編は原田学研究となっており、原田の学問を論じた六編の論考が収録されている。すなわち住谷一彦「原田敏明『宮座』論の普遍性と特殊性」、ヨーゼフ・クライナー「日本文化研究と原田敏明の学説」、岡出重精「『原田学』における『日本古代宗教』論」、石井研士「原田敏明の宗教社会学」、早川万年「原田敏明の視座」、桜井勝之進「神宮に関する四つの新見解」である。住谷は、原田の学問を「日本民族=文化複合の自己認識の学」であると把握しつつも、その理論枠組みに共同体祭祀の普遍性を発見している。またクライナーは、「日本の農村は基本的にオープンな社会であり、村の社会組織の古い形は村座である」という原田の論から、近代日本の民主化の動きを理解できるとする。いずれも、原田学説が研究史に残る過去の学説なのではなく、現在も有効性を持っていることを示している。
 第三編は補遺として、西川順土「原田敏明小伝」と「原田敏明略年譜」、「原田敏明著述目録」を収録している。
 本書は単なる遺稿集ではなく、原田敏明の学説、思想を理解し、検討するために大きな役割を果たす研究書と言える。
 
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