著者名:関東取締出役研究会編『関東取締出役』
評 者:山崎 久登
掲載誌:「地方史研究」320(2006.4)

本書は、二〇〇四年八月に行われた、関東取締出役シンポジウムの内容をまとめたものである。本シンポジウムでは、取締出役の活動を、創立期・確立期・変質期に分け、それぞれ報告が行われている。一つのポイントは従来はセットで研究が進められてきた改革組合村をいったん切り離し、取締出役自体を軸として、その時代性を浮き彫りにしようとしたことである。
 まず、本書の目的を掲げ、引き続いて内容の紹介を試みたい。
 刊行にあたって                           多仁照廣
 関東取締出役シンポジウム開催にあたって
 関東取締出役設置の背景                       田渕正和
 文政・天保期の関東取締出役                     桜井昭男
 幕末期の関東取締出役                        牛米 努
 関東取締出役の定員・任期・臨時出役・持場              牛米 努
 天保期以降の関東取締出役一覧                    牛米 努
 あとがき
 関東取締出役・改革組合村関係文献目録

 田渕論文は、寛政改革期以後の幕府の在方取締りについて分析し、関東取締出役がなぜ設置されたのかを再検討したものである。具体的には、公事吟味物(在方取締)を扱っていた評定所留役の動向を分析し、公事吟味が寛政期以降停滞したことが、取締出役の設置につながったとしている。さらに、当初出役には、犯罪者の逮捕・処罰という行動力を与えられていなかったことを指摘している。また、田淵氏は、関東取締出役発令文書についても検討を加え、文化二年五月に牧野備前守が発した「別紙書付」がそれにあたるとしている。
 桜井論文は設置当初から文政・天保期にいたる時期を扱っている。当該期には、やはり改革組合村の存在が落とせないとし、組合村制度が整ってくる天保期に取締出役の活動も変化していったと指摘する。たとえば、取締出役の職務の一つに囚人管理がある。それを組合村に任せることが可能になったことにより、自らは幕末期の情報収集など新たな活動へ進出していったとする。一方、天保一〇年(一八三九)以降の動向については、取締出役のほとんどが処罰された「合戦場宿一件」より後、幕府が関東取締出役のあり方について試行錯誤を繰り返していたと述べている。
 牛米論文では、文久期から慶応四年(関東取締出役廃止)までを対象としている。この前提となる幕末期治安体制の転換点は、嘉永期に求められる。具体的には、外国人の横浜遊歩地域を警備するために、取締出役指揮下で組合村が取締りにあたったことをさす。これによって日常的な犯罪に加え、武装集団の取締りに対して組合村を動員する体制が作られたと牛米氏は評価する。そして、文久期に入ると、関東郡代・関東在方制が導入される中、取締出役は、関東在方掛の支配国を持場として、取締りの第一線に立つことになったとしている。
 牛米努「関東取締出役の定員・任期・臨時出役・持場」は、三論文で扱いきれなかった、関東取締出役の基礎的データをまとめたものである。また、同「天保期以降の関東取締出役一覧」では、『県令集覧』をベースの史料として、天保以降から廃止に至るまでの、取締出役就任者を表にしたものである。また、巻末の小松修監修「関東取締出役・改革組合村関係文献目録」では、一九五四年から二〇〇五年までの関連論文がリストアップされており、大変便利である。

 本書は、関東取締出役研究の最前線をゆくものであるとともに、研究手引書としても大変充実した内容となっている。ここに本書の特色があり、今後の関東取締出役研究の座右の書となると思われる。
 末筆ながら関東取締出役研究会の今後ますますのご発展をお祈りしたい。
                                 
 
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