山本尚友著『被差別部落史の研究移行期を中心にして
評者・村上紀夫 掲載誌・部落解放No.469(2000.5)

本書は、京都部落史研究所・世界人権問題研究センターで京都を中心とした部落史研究を続けてこられた山本尚友氏による論文集である。副題に「移行期を中心にして」とあるように、古代から近代までの各時代における「賎民」について、移行期を中心に論じられている。
古代から中世への移行期について触れた第一章では、非人身分の成立と「賎民」ヘの分化を論じ、中世から近世ヘの移行を論じる第二章では古代末に散所・宿・清目などに分化した個々の「賎民」について近世への移行過程を詳細に追っている。第三章では浄土真宗の信仰を中心に近世から近代への移行を論じ、第四章では前近代の「賎民」について宿・陰陽師などを例として紹介している。このように、本書は非常に長期にわたる京都の「賎民」の歴史を対象としている。
とくに、中世から近世への移行を扱っている第二章は非常に興味深い。とりわけ洛南に存在していた宿・散所・清目の個々の集落について、緻密な史料の解釈によって中世から近世にかけての移行の実態を論じ、中世後期の宿・散所・清目などの集団は、他の集団に移行することはなかったことを明らかにされた第二節の論考は圧巻である。
しかしながら、これらの論考は主に「賎民」によって形成された「集落」を単位とした議論のため、中世村落史研究で注目されている共同体内部での階層分化や矛盾についての言及は十分なされていない。また、今後は権門への「所属」の実態についての詳細な検討など、本書の指摘を受けてのさらなる研究が待たれよう。
これまでの部落史研究では、起源論については非常に盛んに議論がされてきた一方で、本書で対象としているような移行期についての研究は、関係史料が少ないことなどの理由から、これまではあまりなされてこなかった。そのような意味でも、本書が刊行されたことによって大きな足掛かりが得られたことの意義は大きいと言えよう。
難解な論理による「部落史研究」も少なくない今こそ、本書のような一点一点の史料を精読して構成された実証的な部落史研究が必要である。本書は京都のみならず全国の部落史に関心のある方々にぜひともお勧めしたい文献である。
なお、本書巻末の文献目録は京都の部落史に関する詳細な文献案内としても有用である。
詳細へ 注文へ 戻る