著者名:五島邦治著『京都町共同体成立史の研究』
評 者:赤井 孝史
掲載誌:「史園」6(2005.10 園田学園女子大学 歴史民俗学会)

日本史研究の中にあって、中世以降、高度に発展した京都の自治を担った住人の存在は、「町衆」としてよく知られている。本書では、「町衆」とその原型となった人々を「都市民」と規定し、その誕生から発展のプロセスを検証する。
 著者は京都における「都市民」の萌芽を平安京成立期に見出し、第一部「都市民の誕生と祭礼組織」においては、「諸司諸院諸家人」などと称された黎明期の平安京都市民が、地縁的な結合を育み成熟していく過程を平安京の祭礼との関連の中で論じる。
 平安京において誕生した「都市民」は、中世の史料上は「町人」と称され自治的な地縁共同体である町共同体を営む中心的存在となる。第二部「町共同体の成立」は、六章を設けて「町人」、町共同体について論じる。著者はここで、十五〜十六世紀の京都都市民=「町人」の定義とその活動の実態を描き出す。「町人」の語が商業座の一員を指し、同時に民政の中心とされていたこと、彼らは地縁的共同体の代表者として登場したのではなく、それ故に町自治の唯一の指導層ではなかったと述べる。当初は土倉衆・法華衆など他に指導層となりうる存在もあり、天文法華一揆を契機として「町人」が惣町組織を整備・発展させていく主体となると述べる。従来同一視されることが多かった法華一揆と町衆の自治行動を別個の動向と捉え、「法華衆」による一揆崩壊後に「町人」による地縁的な町共同体が発展したとするところが、著者の論の重要なポイントとなっている。
 第三部「地域の都市民」は、「町人」による惣町の成立をみた京都において「町人」がどのように活動し町を運営していたかを述べる。上京一条、下京岩戸山、下京石井筒の三町の町文書をとりあげ、四面町、両側町成立の経緯や共同体意識、日常生活の一端についても論じる。豊富な文書調査、閲覧歴に裏付けられた、豊かな都市民像が描かれている。
 本書は、京都の都市民による町共同体の成立過程を時間軸に沿って述べた研究書であるが、共同体論のみにとどまらず、文化史的・芸能史的な視点が盛り込まれている。両分野にも多の研究成果を発表している著者ならではの、京都「町人」論である。
 
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