著者名:関東取締出役研究会編『関東取締出役−シンポジウムの記録−』
評 者:岡田 昭二
掲載誌:「群馬文化」285(2006.1)

本書は、関東取締出役研究会(平成三年発足、代表‥多仁照廣)が平成十六年八月三十日、東京都の江戸東京博物館で開催したシンポジウムの記録を中心に、長年の活動の成果を一書に編集したものである。
 関東取締出役は、一般に「八州廻り」と呼ばれ、江戸幕府が天明の飢饉以降、荒廃した関東農村の治安対策として、文化二年(一八〇五)幕府代官の手附・手代の中から八名を選任し、幕府領・旗本領・大名領など支配の区別なく関東全域を廻村させ、無宿・悪党の捜索・逮捕といった広域警察的な権限を与えた役職である。さらに幕府は、取締出役の下部組織として、文政十年(一八二七)新たに改革組合村の編成を指示し、犬牙錯綜する関東農村の支配の再編を図ったことは周知のとおりであろう。
 この取締出役の設置は、上野国内の治安取締りに主眼が置かれたとされるが、それは上州人の気性が荒く、博奕を好み、金回りがよい国柄であったため、他国から多くの人々が流入し、さらに温泉場も多かったことから無宿人が身を隠すには好適地であったことによる。このためか群馬県内の近世後期の地方文書を調査すると、村の名主日記や御用留等の中にたびたび関東取締出役の名前や廻状などが散見でき、県内の自治体史誌でも必ず関東取締出役や改革組合村に関する記述が見られる。また近年では、落合延孝著『八州廻りと博徒』(平成十四年、山川出版社刊)や中島明著『八州廻りと上州の無宿・博徒』(平成十六年、みやま文庫刊)等も刊行され、関東取締出役の活動の実態解明が急速に進展しつつある。
 こうした研究状況の中で、その基本書とも言うべき本書の刊行は誠に時機を得たもので、その内容構成は次のとおりである。
・刊行にあたって(多仁照廣)
・関東取締出役シンポジウム開催にあたって
・関東取締出役設置の背景(田渕正和)
・文政・天保期の関東取締出役(桜井昭男)
・幕末期の関東取締出役(牛米努)
・関東取締出役の定員・任期・臨時出役・持場(牛米努)
・天保期以降の関東取締出役一覧(牛米努)
・あとがき
・関東取締出役・改革組合村関係文献目録(小松修ほか)
 目次からも明らかなとおり、本書はシンポジウムにおける田渕・桜井・牛米三氏の報告を柱とする。まず田渕論文は、創設期における出役設置の背景について寛政改革期の幕府の動向から検討し、桜井論文は文政から天保期における取締出役の活動や役割について改革組合村との関係の中で検討する。そして牛米論文は、幕末の嘉永から文久期における出役制の変質過程を検討したもので、出役の設置から廃止に至る活動を創設期・確立期・変質期に区分し、その全体像を通観できるよう構成されている。
 しかも取締出役の実像を解明するため、定員・任期・持場などの基本事項と共に、参考資料として天保期以降の出役一覧や関係文献目録までも収録している。今後、関東取締出役や文政の改革組合村の研究、ひいては関東近世史研究を志す者には必携必読の基本図書となるであろう。是非とも座右に置かれることをお薦めしたい。
 
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