書誌紹介:小栗栖健治著『宮座祭祀の史的研究』
掲載誌:「日本民俗学」244(2005.11)
評者:窪田 涼子

本書は著者の宮座関連の論考をまとめたものである。著者は「序にかえて」で、膨大な蓄積をもつ宮座の研究史を整理し、宮座の成立時期、通時的に存在した宮座の時代的特性、重層的に存在する宮座の構造、という三点の解明を宮座研究の問題点とし、同時に本書の課題とする。そして封建社会において村落に広く展開した宮座祭祀の存在形態を具体的に実証し、村落と宮座祭祀の関係を明確にし、宮座祭祀の歴史的変遷ならびに歴史的意義を明らかにすることを、本書の目的としている。
 全体は、「第一部 村の祭祀」「第二部 荘園と郷の祭祀」「第三部 宮座論」「補論 祭りの歴史・意義・役割」の構成となっている。第一部では宮座と村落の関係を、惣村文書の伝来、惣村組織、鎮守社の再建、荘宮座から村宮座への変質、近代社会と宮座、村宮座と祭礼という視点から、第二部では宮座と荘園の関係について、在地支配、開発神、荘郷祭祀と水利、荘宮座祭礼における重層構造などを視点として論じる。ここではフィールド調査および史料に基づいた実証的研究が、十一の各章にわたって展開され、本書の中心部分となっている。
 やはり本書の圧巻は、近江の橋本村、今堀郷、曽束村、堅田、仰木、綣村、摂津の貴志村、播磨の黒田村など各地で行われた、著者による詳細なフィールドワークの膨大な成果であろう。宮座を、神社祭祀を紐帯として共同体運営をおこなう特権的集団と位置付け、最も積極的に機能したのは中世であるとした上で、中近世の史料や現行の宮座祭祀の現状までを対象として、宮座の時代的特性を、とくに村落との関わりで詳述している。このような視点に立つ著者の成果は本書の諸論考のみならず、いくつもの新史料の発見や翻刻の成果としても公表されている(近江国曽束村宮座史料、仰木荘の祭祀関係史料などの翻刻、堅田・居初家文書の天正五年大村納帳の発見など)。これは徒に抽象的議論に陥ることなく、つねに対象に真摯に向き合う著者の研究姿勢によるものと思われ、本書もその姿勢に貰かれている。
 第三部では以上の実証研究に基づく著者の「宮座論」が述べられる。惣村の成熟によって惣村宮座が展開したのちも残る荘園鎮守社の荘宮座は、各惣村相互の水利や入会の調整の場、村連合の絆を確認・強化する場としての必要性から残存したもので、この重層的宮座は近世的広域祭祀の出発点でもあるとする。これらの提言は、日本中世史研究における村落二重構造論や地域社会論などと深く切り結ぶ重要な論点であり、今後の「学際的な宮座研究」の出発点となるものであろう。
 
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