書誌紹介:影史学研究会『民俗宗教の生成と変容』
掲載誌:「御影史学論集」30(2005.10)
評者:中村 慶太

本書は、御影史学研究会 民俗学叢書16、御影史学研究会創立三十五周年記念論集として刊行された。記念論文集としては、創立二十五周年に刊行された『民俗の歴史的世界』(岩田書院 一九九四年一〇月刊)以来、二冊目となる、会員の研究成果の集大成である。
 本書の内容は、つぎのとおりである。
はじめに−民俗宗教の世界−   酒向伸行
第一編 生成と変容
 「造仏伝承の源流」  西尾正仁
 「疫鬼と槌」  酒向伸行
 「尊恵将来経伝承の展開」  久下正史
 「妙見菩薩の像容について」 植野加代子
第二編 海の道と山の道
 「紀州沿岸の神功皇后伝説・補陀落渡海と潮流」            井阪康二
 「行勝・天野社と平清盛」                      俵谷和子
 「下関の伊崎のカネリと厳島信仰」                  宮原 彩
 「鬼追いの由来」 小山喜美子
 「白山から近江への道」  平野 淳
第三編 生活と俗信
 「中世の「湯」と担い手」  藤江久志
 「生活文化の舞台としての公衆浴場の現状」   白石太良
 「胞衣と産部屋」 田中久夫
 「針供養とこんにゃく」 渡部典子
第四編 ムラとマチ
 「河原巻物と皮革」 永瀬康博
 「伊予の狸伝説の成立とその背景」                  篠原佳代
 「神事頭役割制の維持と変化について」                西尾嘉美
 「近世村落祭祀の日常と非日常」                   兼本雄三

あとがき                               田中久夫
 第一編は、民俗宗教にかかわる伝承の生成から変容といった問題を縁起や図像を資料として、その変遷を詳細に分析して解明した論考から構成される。
 第二編では、民俗宗教のうち海上交通や漁業にかかわる伝承や信仰を海の道と名づけている。また山岳修験にかかわるものを山の道と名づけて、これらの伝承や信仰の伝播ルートや信仰圏を解明しょうとした論考をあつめている。
 第三編では、生活と俗信と題して、ひろい意味での民俗宗教にかかわる論考で構成されている。生活文化として、とくに銭湯にかかわる論考を二本。俗信にかかわる論考として、産育習俗、年中行事にかかわる論考からなる。
 第四編では、産業伝承をもとにした産地間の争いと伝承の変遷、伝承の広がりと飢饉と、村落祭祀の変遷といった、民俗宗教の展開する舞台としてのムラやマチにかかわる論考をあつめている。
 以上のように本会会員の研究テーマは、民俗宗教を中心にして多岐にわたる。そして、そのいずれも現行の民俗をもとにして問題を設定し、それを縁起や図像、説話集、地誌、日記、村方文書などといった歴史資料を駆使しながら、民俗宗教が生成し変容していく過程や原因を、解明していこうとするところに共通する特徴があるといえよう。

 
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