書誌紹介:川村 優著『旗本領郷村の研究』
掲載誌:「房総の郷土史」33(2005.3)
新刊紹介:樋口誠太郎

 今回、川村郷土研会長が長年研究を続けておられる「旗本領研究」に関する三冊目の著書を岩田書院(東京都世田谷区南烏山)より刊行された。
 本書は川村博士が旗本領研究という学界でも最大の難問の一つである課題について自身の研究成果を精力的に世に提示したものである。
 学界におけるテーマの専門書というと、私たち郷土史を研究する者にとっては、無関係なことのように思われがちであるが、博士の今回の著書を『房総の郷土史』の読者(郷土研の会員の皆様)に紹介したいと思うのは、近世日本における旗本領の最濃密分布地といえる両総(上総・下総)をフィールドにして、私たちにとって本研究の重要な事例をいろいろと取り上げていることである。
 前回(平成三年刊)の博士の『旗本知行所の支配構造』では、主として香取郡東庄町を中心に支配していた旗本石河氏について、その支配構造を分析されている。
 今回の著書はさらに広い視点から両総地方の旗本領支配のあり方を取り上げ、その内容構成は次のようになっている。
 まえがき
 第一章 旗本領の性格と知行権
  第一節 旗本領知行村落の特質
  第二節 支配形態よりみたる房総三国の性格の一端
  第三節 旗本知行権の評価をめぐる一・二の問題−鈴木壽博士の所説の一端との関連において−
  第四節 旗本(領)研究のための覚書−今後の研究飛躍のためのいくつかの視点について−
 第二章 旗本領郷村と組合村の動向
  第一節 相給村落の一特質
  第二節 近世後期東上総旗本相給村落の一動向−享和三年正月、上総国武射郡八田村の「取締拾給連印帳」のもつ意義−
  第三節 近世における組合村の存在とその性格−上総・下総両国の数例を中心として、組合村の存在とその規模−
  第四節 上総国における改革組合村の始原
  第五節 郷五人組考
 第三章 旗本知行所支配の実態
  第一節 酒井氏・仙石氏の知行所支配
  第二節 筒井氏の知行所支配(一)
  第三節 筒井氏の知行所支配(二)
  第四節 杉田氏の知行所支配−幕末期嘉永年代を中心に−
  第五節 阿倍氏の知行支配
  第六節 小栗氏の知行支配
 以上が博士の著書の目次に従ってのテーマの紹介である。これらをみると、「相給村落」、「郷五人組」、「旗本知行支配における房総での実能」等々について、「地方文書」を広く蒐集、活用されていることが知られる。
 こうしたことは私たち郷土史研究に携わる者に、実証的郷土史研究のあり方を具体的に示されているといえよう。
 また、本文中には、旗本及びその知行所に関するわが国における学界全体の研究史も紹介されていて、大変参考になる。特に外国人の研究者J・F・モリス氏の川村博士の研究に対する見解の紹介も大いに興味と関心をそそられる。同時にこのテーマが日本封建社会論の分析をめぐって国内だけでなく、外国人の目にも強くとまっていることに驚かされよう。
 博士はこの『旗本領郷村の研究』に続いて第四冊、第五冊目の著書を刊行する準備をしておられるとうかがっている。
 本書は川村博士の約半世紀に及ぶ旗本領研究の一里塚であり、今後の研究の更なる御発展と一大集成を切に念願して止まない。


 
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