書誌紹介:鉄の道文化圏推進協議会編『金屋子神信仰の基礎的研究』
掲載誌:『日本民俗学』242(2005.5)
紹介者:飯島 吉晴

 島根県東部は、良質の砂鉄と豊富な森林資源にめぐまれ、大正半ばに近代製鉄業に追い抜かれるまで鑪製鉄が盛んに行われていた地域であり、とくに近世後半にはわが国の総鉄生産量の九割も占めていたとされている。しかし、この製鉄の先進地帯もその後は衰退の一途を辿ることになった。
 そこで、昭和六十二年(一九八七)に、島根県東部の鑪製鉄と関わりの深い六市町村(安来市・広瀬町・仁多町・横田町・大東町・吉田村)は、当時の自治省の奨励するリーディング・プロジェクトの指定を受けて、鑪製鉄に関する文化遺産の保存と公開を軸にした新しい地域づくりをめざして、「鉄の道文化圏推進協議会」を結成したのである。以来、この六市町村では、鑪・和鉄和鋼・神話をテーマにした公開展示施設などのハード面の建設事業や情報発信事業の推進とともに、文化講演会や学術シンポジウムなどのソフト面での研究調査にも積極的にとりくんできた。本書のテーマである金屋子神信仰の調査も、その一環として行われたものである。
 本書は、鑪の守護神として中国地方一帯で広く信仰されている金屋子神の信仰圏が、「何時どのような過程を経て形成され」たのかを明らかにすべく企画されたもので、平成六年から十年間におよぶ長い歳月をかけて、金屋子神信仰の実態に迫ろうとした作業の成果である。序章は本調査の概要と広滴町西比田の金屋子神社本社の沿革、第一部は雲州のたたら製鉄と金屋子神信仰をテーマとした五本の論考、第二部は本書のメインである六市町村での調査カード方式による金屋子社(祠)の分布調査の実態報告、第三部は金屋子神社所蔵勧進帳の影印と翻刻、付章には金屋子神信仰研究の現状と課題に関する論考が一本と参考文献が掲げられている。
 本書は、鑪製鉄や金屋子神信仰に関心をもつ研究者の基礎的な資料として、今後この分野の歴史の解明を志す者には資するところが大きい成果といえる。
 
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