書評: 京浜歴史科学研究会編『近代京浜社会の形成』
掲載誌:『歴史地理教育』(2005.6)
評者:石井 喬

 二〇〇一年の歴教協全国大会は横浜の神奈川県民ホールで幕を開けた。あの時からちょうど二〇年前の一九八一年一一月には、同じ会場で「自由民権百年全国集会」が大変な熱気の中で開かれた。全国から二〇〇〇名を超える参加者を迎えるため、全国実行委員会とともに現地事務局も神奈川実行委員会として実務面などで奮闘した。神奈川歴教協の会員の多くも参加した。現地事務局の主要なメンバーは、大会を単なる一回限りのイベントで終わらせてはいけないという思いを共有した。そこで組織されたのが京浜歴史科学研究会である。一九八四年から毎月二回の定例研究会、春・夏の集中研究会、史跡を歩く会などがきちんと行われ、毎月の『京浜歴科研会報』と年一度の『京浜歴科研年報』を刊行し続けてきた。この会の二〇年にわたる活動の成果が、このほど発刊された本書である。
 第一編 海防と相武の村々
 第二編 京浜社会の歴史的形成
 第三編 歴史学習活動と研究の方法
の三部に内容は大別される。各編五本ずつの論文を一五人の会員が執筆している。いくつかの論題をあげてみる。
・梵鐘の海防供出
・横浜開港をめぐる周辺住民の動向
・名主が記録した幕末の社会情勢
・陸軍登戸研究所の研究・開発・製造の体制と地域基盤
・吉村昭の文学と「生麦事件」
・教科書問題のとりくみから見えてきた歴史学習運動の課題
・京浜歴史科学研究会二〇年の歩み
 −などである。研究会は、ある市民会員の「誤りなく生きるために、歴史を学びたい」という言葉を活動の基礎とし、歴史をなぜ学ぶのか、地域史になぜこだわるのか、をテーマとして研究を続けてきた。各論考はこの問題意識にきちんと応えている。地域的にいえば京浜地域をフィールドとする論文が多いが、それぞれの地域で地域史を学習していく上で本書は大きな参考になるであろう。  (石井喬=いしい たかし/神奈川歴教協)


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