鈴木 勇一郎著『近代日本の大都市形成』
掲載誌:大阪の歴史65(2005.1)大阪市史編纂所
評者:松岡 弘之


 都市を歴史的にどのようにとらえるかについては、近年急速に研究が蓄積されつつあり、このことは近代都市の場合でも同様である。本書は鈴木勇一郎氏がこれまで発表されてきた東京・大阪の二つの大都市をめぐる論考をまとめて世に問われたものである。本書の構成は、四部(@近代都市への転形A「郊外生活」と「田園都市」B近代大都市の形成と展開C近代大都市の変容)十一章からなり、明治初頭から昭和戦前期にわたる長いスパンが検討されている。

 本書における氏の中心的な課題は近代大都市の空間的膨張過程の解明にあり、その骨格を規定した都市計画についての考察および郊外地域における開発の進行について都市交通網の整備・近郊農村の変貌などが密接に関連づけながら検討されている。

 大阪の事例は、築港問題を扱った第一章、明治末期の天下茶屋の住宅開発について検討した第三章、箕面有馬電気軌道による郊外開発を取り上げた第四章、関一の都市計画や区画整理事業を追った第六・七章、さらには国家の地方計画の中に大阪が組み込まれていく第十章などで分析が行われている。これらの成果は丹念な資料の博捜からなされている。大阪の事例にかぎってみても、山口半六が一八九九年に市参事会へ提出した「大阪市新設市街設計説明書」、明治期まだ郊外地とされていた天下茶屋の様子がうかがえる雑誌『郊外生活』、都市計画法施行前夜の一九一九年一二月に開催された大阪市区改正委員会における議論の模様など、多くを教えられた。

 一方で、このような視角から東京・大阪のふたつの事例を提出されていることは、双方の都市の比較検討を容易に行うことを可能にしている。と同時に、氏が東京と大阪を「大都市」として規定されたことは、いっけん首肯できるものの、大都市を扱うことの特殊性や「大都市」と他の都市とを分かつ要因などについてどう捉えるべきかといった問題などについて氏は発言を抑制されており、これまで検討されてきた都市政策・都市計画研究など、氏の研究を踏まえた近代都市をめぐる歴史研究のさらなる活性化を期待したい。

 都市郊外の開発のありようを具体的に解明した堅実な一著を得たというべきであろう。諸氏のご一読をお願いしたい。


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