神田 より子著『神子と修験の宗教民俗学的研究』
掲載誌:日本民俗学240(2004.11
評者:西海 賢二


 巫女、神子、神楽、修験などを宗教民俗学・文化人類学・宗教社会学の立場から研究してこられた著者が処女出版の『神子の家の女たち』(東京堂出版・一九九二年)を刊行してから十年、ここに九百頁にもなろうかというまさに大著が刊行された。

 本書の主たる研究対象である「神子」は、東北地方とくに岩手県陸中沿岸地方に現在も活躍している晴眼の女性巫女である。神田氏によれば陸中沿岸地方にはイタコ、神子、カミツキの三種類の巫女がおり、そのうち盲巫女のイタコ、カミツキは、他地域でも言及されている種類の巫女と同じ部類に属するが、神子はこれらの分類に属さない。神子は口寄せもするが、口寄せミコとは分類できない。また神社で舞を舞うが、神社所属でもなく、神社に仕えるミコでもない。明治の神仏分離令を経て百数十年たつも神仏習合の思想を今に引継ぎ、そしてその活動と歴史的なプロセスを考えれば、イタコ、カミツキを整理し、神子を含めた新たな分類が必要ではないかと試みたのが本書である。

 巫女研究は柳田國男・櫻井徳太郎らに代表されるように幾つかの「型」にのっとって行われてきた特徴がある。これを従来の巫女の類型に当てはまらない特異なあり方を示す「神子」をこの二十年来民俗学、社会学、国文学、民俗芸能、地域史などの学際的視野に立脚して毎年のように学会に提示してきた仕事がここに「神子」研究の集大成としてまとめられたのである。以下に主要目次を掲げる。

序 論
第一部 巫女の研究史(四章構成)
第二部 陸中沿岸地方における神子の生活と地域社会(六章構成)
第三部 神子と修験のかかわりの歴史的変遷(四章構成)
第四部 神子の儀礼と世界観(六章構成)
結 論 巫女と修験の新たな研究にむけて

 本書の刊行を契機にして東北地方だけでなく我が国の「神子」研究は確実に新しい段階に入ったのではなかろうか。というのも研究史の回顧にも詳細に論じられているように宗教民俗学を標榜しつつも神田氏の構想には徹底した地域主義が貫徹されているからである。その後にまとめつつある東北の神子と修験道が集大成されたときに「日本の神子」研究は本書をバイブルにしなければ進まなくなるであろう。


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