大藤ゆき著『子育ての民俗』
評者・朝日新聞「ひと」欄 掲載紙・朝日新聞(2000.1.6)


家庭人として研究続け『子育ての民俗』出版
妻であり、母であり、その視点から在野で研究を続けた。昨秋、その集大成「子育ての民俗」を出版した。
東京女子大高等学部を卒業後、柳田国男の「弟子」になり、民俗学に出あった。女性民俗学研究会の発足に加わり、編集者として育児誌「愛育」の発行に携わった。
三十歳の時、長男を出産し退職。以後、三人の子育てに追われ、神奈川県鎌倉市の自宅から東京都内で行われる研究会の会合にも通えなかった。その十二年間、「子育てや家庭は民俗そのもの」とPTAなど地域活動に没頭、その中に研究テーマを求めた。
民俗学の視点でみると、これまで古臭いと退けられてきたものの中に、今の教育問題を解くヒントがあるという。
かつては出産や育児の節目に、実の親以外の親せきや知人が「帯親」「取り上け親」「名付け親」「乳付け親」など仮親になった。多くの人が子どもにかかわり、複眼的に育てる知恵だったという。今は都市化や核家族化で周囲の干渉は少なくなった半面、母子が孤立することで問題も起きる。「電車で人の子を注意したら、逆に怒られるような社会はおかしい」いじめ、校内暴力など問題が多い中学生については「子ども扱いをやめるべき だ」という。昔は、男なら十五歳ほどで若者組に入る時から、女なら十三歳ほどで初潮を迎えた時から、一人前扱いした。
「体の成長に合わせ儀礼をして自覚を持たせたんですね」。今はより早熟なのに二十歳近くなっても親が密着している。「もっと責任を持たせ、親世代でなく、年齢の近い若者が指導する仕組みを考えてはどうでしよう」
一九八六年から約七年間、研究会の代表を務めた。この度の出版は、米寿記念にと、会の後輩らが企画してくれた。だが、まだまだ現役。過去の習俗を調べながら、目は現在に向いている。
(文 山田裕紀)
詳細へ 注文へ 戻る