私が推薦する本:小川 博 『歴史研究』(2005年4月号)
高橋在久著『房総遺産』


 千葉県教育委員会の文化財にかかわる公務を長年にわたって勤め、江戸川短期大学にて教育にあたられた高橋在久氏が喜寿にあたって今までに著述された考古・民俗・歴史にかかわる著書である。高橋氏は房総半島の東京湾岸の富津市大堀に生を享けその郷土にかかわる研究をなされてこられたが、本書には貴重な記述が数多くもられている。
 その内容は@遠古の多彩な原風景には二十二編が収められ、船橋潟と大神宮、房州海女の起源、鮭の山倉様、A原風景の中の水土の二十四編には、源頼朝と房総、中ノ瀬考古学、天与の醤油事始、五代力船の活動、川船文化、佐倉順天堂、B千葉県の誕生と年輪の二十編には、東京湾口の海堡、浅井忠の誕生地、将門村の浅井忠、房州写生史考、海の幸の舞台、柳田国男先生を囲む会、柳田国男の足跡、古泉千樫の誕生地、C地名は地域の事典には十八編、大房岬と増間島、アシカ島の点描、スカという地名、アオヤギの原風景、千葉語源考、D房総の生活の古典には三十二編、高宕山付近の民俗、茗荷と女房、雨乞いの民俗、水郷正骨薬、鬼来迎の回想、おまと神事、三月三日考、上総掘り、いわし文化、大堀砂糖、クジラマワシ、谷津田の見直し、E文化財と共に五十年には二編、東京湾学から見た海堡、文化財と共に五十年、追い書きの各章より成っているが、ここに紹介した章節はその一部にすぎないがそれぞれ多くの知識がもられており、それぞれの地域にのこされている由来が教示され、旅人である私たちに地域の文化の奥深さを与えてくれる。
 高橋氏は一八世紀英国文学の古典であるギルバト・ホワイトの『セルボーンの博物誌』に傾倒され、自からも英国のセルボーンを一九八六年、一九九四年の三月に訪ねられ、そこが一八世紀のままに保存されている原郷があり、自からの故郷である富津岬を「富津岬セルボーン化構想」とすることを自覚され、「東京湾学会」を組織され一九九八年二月には『東京湾学会誌』を創刊された。また高橋氏の個人誌として『セルボーン・地域の水土と文化』の刊行もされている。すでに『房総の年輪』創樹社、『江戸前覚書』青史社、『東京湾水土記』未来社、『東京湾学への窓』蒼洋社、『江戸前』第一法規の著書もあり、千葉県立美術館長をしておられたときに展観に尽力された明治期に千葉県に生まれた画家の浅井忠についての『浅井忠への旅・その原風景を追って』未来社、『浅井忠の美術史』第一法規の著作もある。高橋氏は今、自らセルボーンとする富津岬にて研究に専念されておられる。

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