新刊紹介:小池淳一 『口承文芸研究』28(2005.3)
胡桃沢友男著『柳田國男と信州』


 著者の遺稿を石井正己氏がまとめたもので、第一篇が「山間の古道からの発見」、第二篇が「郷土研究から民間伝承論へ」、第三篇が「補遺」となっている。執筆の意図として信州における民俗学の歩みを著者の父である勘内との関わりで明らかにしようとした、という。生前に刊行を期していたものに石井氏の書誌と解説とを加えて一冊に整えられており、民俗学が一つの地方でどのように受けとめられ、展開していったかを具体的に知ることができるという点で民俗学史の基礎を成している。今後同様の作業が別の地域や人物について行われていく際のお手本になるような書物である。著者の民俗学関係の業績は六〇〇頁をこえる本書でも尽くされたわけではないが、その大きな柱がまとめられたことになる。口承文芸のみならず、民俗学的な視角がどのように形成されていったか、その事情と特色とを考えていく場合に必読のものといえる。石仏研究など、信州以外の民俗研究にも有用な論考も多く収載されている。


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