田中智彦著『聖地を巡る人と道』
評者・西海賢二  『日本民俗学』241(2005.2)


 二〇〇二年十二月、我々は田中智彦氏と永久の別れをした。齢四十九歳、あまりにも早い旅立ちであった。個人的には田中氏とは約四半世紀の交誼を結んでいただいたが一番の印象はやはり酒の席での彼の挑戦的な言動にあったように思う。彼の研究テーマは「巡礼(遍路)、社寺参詣、六十六部」フィールドとしては「秩父巡礼、西国巡礼、四国遍路、大阪・兵庫、金毘羅、伊勢・熊野」などであった。時代は近世、基本とする資料は「巡礼案内記、巡礼絵図、地誌、道中日記、道標(金石文)、扁額」などで、学問分野となると不図考え込んでしまうほどの活躍があって困惑する事がある。彼とよくあった学会は日本民俗学会、歴史地理学会、日本山岳修験学会、巡礼研究会、日本宗教民俗学会などであったが、ある酒の席上こんなことがあった、田中さんは「民俗学のプロパーでしょ」、ということになった。すると彼は豹変して「俺は地理学だ」と声をあげたことがあった。それはいうまでもなく、彼が隣接の学者達からも評価される学際的研究者であったことを示すものであろう。
 このたび、田中氏の研究成果をもとに田中智彦論文集刊行会(岩鼻通明・小田匡保・小野寺淳・小山靖憲・田中眞吾・巡礼研究会)の手によって『聖地を巡る人と道』が刊行された。主要目次を掲げれば
 序 章 巡礼の成立と展開
 第1編 西国巡礼路の復元………………解説:北川 央
 第2編 地域的巡礼地……………………解説:小嶋博巳
 第3編 四国遍路と近世の参詣…………解説:小野寺淳
 終 章 日本における諸巡礼の発達
 序章は西国巡礼の基本的経路と発展的経路、東国・西国の巡礼者の巡礼経路などを提示したものである。
 第1編は西国巡礼における発展的経路の派生、西国巡礼の発展と巡礼空間の外延的拡大を論じたもの。
 第2編は、三十三観音の地域的巡礼相互の関係(札所の兼ねている意味)、観音三十三所の地域的巡礼の地域的概況を論じたもの。
 第3編は、巡礼絵図と巡礼案内記との関わり、金毘羅参詣経路における四国の渡海と宿相互の関係を論じ、かつ畿内・近国からの参詣対象社寺(西国巡礼を含む)と伊勢参宮経路を紹介している。
 終章では、日本における種々の巡礼、西国巡礼・四国遍路の発展と時代の変遷(巡礼史)を論じている。


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