岡田 博著二宮尊徳の政道論序説−報徳獺祭記−
掲載誌:歴史研究(2004.10)
評者:小川 博


 鳩ヶ谷に住みついたゆかりで岡田博氏が江戸時代の住人・小谷三志ののこした富士講の文書を発掘し解読する努力から二宮尊徳(金次郎)の報徳のしごととのつながりに気づかれ、地味な学的作業として『報徳と不二孝仲間・二宮尊徳と鳩ヶ谷三志の弟子たち』岩田書院 二〇〇〇年八月刊を問われたが、本書は一円融合会刊の『かいびゃく』誌に寄せらせた文章を中心としてまとめられた。獺祭記というのは正岡子規の獺祭書屋主人にならって貴重な報徳図書を書架にならべて精進されていることを自らの心とされておられるからである。岡田氏は四十六歳のとき鳩ヶ谷の小谷三志に関する文書と出会われたのを機に富士講研究会を主宰されていた岩科小一郎先生の同志となり、埋もれていた三志の文書の解読を独力ですすめておられるうちに昭和五十一年六月二十一日に二宮尊徳研究の内山稔先生との出会いがあり、三志と尊徳のつながりに深い関心をもたれることになられた。内山氏は昭和五十七年一月、日大へ出勤途上、四十九歳の若さで病没されたのは惜しみてもあまりあることであった。本書は大藤修氏の序に「近代に入り尊徳の門人たちが著した報徳書を批判的に吟味し直すとともに、『二宮尊徳全集』所収の尊徳自身の著した書簡・日記・仕法書などを綿密に分析し、尊徳が生涯を通して主張し実践した『政道論』『政治政策』を明らかにして、尊徳のめざした国づくり社会づくりはどのようなものであったかを自ら把握することを志された」(三頁)に述べられている。本書の章節は九章にわけられており、どの章にも岡田氏の思考が満ちている。二・「報徳秘録」開巻 三・「分度論」愚考 四・番外桜町領仕法と不二孝仲間 五・勤労と労働と仕事 六・報徳無利息金貸付けと現代金融考の各章は意義ある文章ではないかと私は考えている。岡田氏は和歌を詠む人でもあり、自ら毎月刊行する『まるはとだより』小谷三志翁顕彰会にも、和歌が詠まれているが、その文学的感覚から文体はきわめて読みやすく、三志と尊徳という江戸時代における民衆のなかからの思想をあらためてわかりやすく教えてくれることは有益である。


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