下野敏見編『民俗宗教と生活伝承―南日本フォークロア論集―』
評者・先田光演 掲載誌・南海日日新聞(99.10.2)


鹿児大学学法文学部の下野敏見教授のもとで、民俗学を学んだ学生たちの修士論文十一編が『民俗宗教と生活伝承』として発行された。テーマを定め先行文献を猟渉し、数多くの事例を採集して分類比較考察したこれらの論文はずっしりと重くさわやかである。
現在彼らは研究所員や学芸員などとして勤務しながら、各々の地域で研究活動に励んでいる。学生時代に研究手法を身につけ、地域に根をおろしながら多様な地域素材を発掘、調査研究する若い研究者の果たす役割は大きい。
渡辺一弘は「南九州のシャーマニズム」において宮崎県内のシャーマンの分布や特徴を現地調査してシャーマンの成巫過程を述べ、「召命型は本人の意思にかかわらず、心身異常、神がかりを経験することにより、霊的存在からのお召しを自覚」する。これは琉球地方などに多く、一方、修行型は「シャーマニズム的文化の枯渇した地域」にみられると考察している。これはまさに大和文化と琉球文化の根本的な差異を指摘しているとともに琉球奄美文化の古層性を暗示している。大和本土の民俗宗教を知ることは琉球弧の宗教文化を研究する上で看過できない作業であることを教えられた。
溝辺浩司の「南九州の修験道」は金峰山信仰を丹念な現地調査と行者の聞き取り調査から、金峰山行者は召命型と修行型を折衷したシャーマンであるとして、呪医、憑きもの祓い、祈願、卜占などを行う修験系シヤーマンであると論述している。これらの呪術は先祖祭祀が濃厚な琉球弧とは対象的であり、彼我の比較研究の重要性を示唆している。
この他にも松村利規「海での願い」は南島の浜下り研究に、井上賢一「海運の伝承」は南島交易研究に、田中勉「南九州の牧」は南島の踏耕に関連している。
下野教授の解説は全論文の研究史的位置づけを明確に述べてあり、各論文の意義を理解しながら読むことのできる好著となっている。
(先田光演・沖永良部郷土研究会会長)
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