高橋 貞子著『座敷わらしを見た人びと』
評者:川島 秀一
掲載誌:口承文芸研究27(2004.3)


 ザシキワラシについて、資料的価値のある書が生まれた。著者は岩手県岩泉町に生まれ、そこで昭和二十年代半ばから平成十四年五月までの五十年以上にわたって、少しずつ集めてきた「座敷わらしばなし」について、集大成を試みた。

 話者の名前、年齢、採録年も加えた、ていねいな再話によって、岩泉地方では五十戸を越える旧家のザシキワラシについて、訥々と述べられていく。岩泉地方のザシキワラシの特色は、奥座敷の、ある一枚の畳の上に寝ると現れること。ザシキワラシのいる家の人が寝たときは現れず、よその人が泊って寝ると現れること。寝ている人の背中が直角になるまで敷板ごと起こされることなどが見うけられる。岩泉地方の、ザシキワラシに対する説明も多岐に渡り、大工による呪術説・河童説・イヅナ説・ネズミの猿立説などが飛び出している。これらの民俗社会における説明の中から一つを取り出し、そのまま研究者の方法にしてしまう危険性についても、この豊潤な事例集の読後には教えてくれるだろう。


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