任 東權著『韓日民俗文化の比較研究』
掲載誌:悠久95(2003.10)鶴岡八幡宮


 任東權氏は、現在、韓国民俗学会名誉会長を務め、中央大学校名誉教授でもある。一九六三年に来日して以来、今日までの四十年間、繰り返し日本を訪れ、日本の研究者との交流を深めながら、各地で民俗調査を行ってきた。本書は、その間に日本の学会・研究会等で、日本語で発表した講演や論文の集大成である。

 四部構成の前半は、「韓国の民俗と信仰」・「韓国の民謡と説話」と題し、韓国の祖先祭祀や墓制、民謡アリランの起源といったテーマを、現在に至る変容に注視しつつ、論を進めている。

 後半は、「民俗文化交流の諸相」・「韓国からみた日本の民俗」と題し、文献資料を踏まえた上で、日本での現地調査から分析を進めている。一例をあげると、宮崎県南郷村で行われている「師走祭り」は、百済王伝説の証拠と伝えられており、百済文化との交流の諸相が、著者によって見出されている。これらについては、今後検討を進めていかなくてはならないが、こうした比較研究の試みによって、日韓が今後、ともに研究を深めていく可能性が広がってきていることが分かる。

 比較民俗学という視点は、日韓関係においては、歴史的背景から、ナショナリズムの問騒から逃れることができずにきた。著者は韓国の民俗文化について、「内部にはそれなりの陣痛があって、変化を余儀なくされている」と記しているが、日本もまた同様の痛みを抱えている。今後、本書にちりばめられた課題を、日韓の共通素材として取り組んでいく姿勢が求められている。


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