籔 元晶著『雨乞儀礼の成立と展開』
評者:篠原 佳代
掲載誌:御影史学論集28(2003.10)


 著者が、雨乞儀礼の研究を始めて十二年になる。この研究テーマを決めたきっかけとなったのは、高谷重夫氏の『雨乞習俗の研究』(法政大学出版局、一九八二年)との出会いであった。そして、兵庫教育大学大学院に進学したことによって、研究を始めたのである。本書は、題名の通り雨乞儀礼の成立と展開を古代の国家的な祈雨を中心に述べられている、論文集である。

 内容の構成は、以下のようになっている。(中略)

 第一章では、国家的な祈雨の成立と展開について論じられている。天武朝から、国の政治的な行為として祈雨が行われるようになる。その際の方法は、諸社奉幣という方法であったが、平安時代になると、様々な方法の祈雨が行われていた。そして、国家の水旱に対する認識についても検討されている。

 第二章では、東密による祈雨の成立と展開を中心に論じられている。まず、空海請雨伝承の成立と展開について述べられている。次に、善如竜王の女性化の問題についても検討されている。そして、十二世紀になると、東密の最も重要な祈雨法である請雨経法が衰退を見せ、それと交代するかのように、醍醐寺での祈雨が登場することとなる。この両者の事柄がどのように生じてきたのかを、請雨経法の法脈に注目しながら考察されている。

 第三章では、雨乞の社として有名であった兵庸県千種町の鍋ヶ森神社の信仰の広がりを、後山の修験が主に関わっていたのではないかと推測されている。そして、兵庫県歴史の道の調査での雨乞や水の信仰などに関する伝承を報告されている。
 本書は、雨乞儀礼についての史料を収集し、丁寧に分析されている。そして、著者が述べているように、雨乞儀礼においては、古代も現代も、宗教者の関与というものが、非常に大きな位置を占めていたということが、よく考察されている。


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