松崎 憲三編『同郷者集団の民俗学的研究』
評者:宇野田 綾子
掲載誌:成城大学民俗学研究所ニュース59(2003.1)


 本書は、民俗学研究所の共同研究「都市の中の故郷一同郷集団をめぐる民俗−」の成果報告書である。「都市に移住した出郷者達は、その後どういった生活を送り、また故郷にどのような思いを抱いているのか、また彼らが所属する同郷者集団は、どのような役割を負わされているのか。そして、一方で地方に在住する人々は、出郷者をはじめとする都市人に何を期待し、自らの生活地をどう維持、再編しようとしているのか」といった問いに答えようとするものである。

 本書の構成は次のとおりである。第一部が同郷者集団の実態、第二部が職業・学業と故郷、第三部が都市と農村の交流となっている。更に細かく各章のタイトルを見ていくと、第一部では、松崎憲三「向都離村と帰去来情趣」、牧野眞一「沖縄の同郷者集団 −県人会を中心に−」、金野啓史「同郷者集団と自治体 −岩手県陸前高田市の事例を中心に−」となっている。第二部では、谷口貢「都市における同郷者集団の形成と故郷観 −新潟県西蒲原地方の出郷者と東京の風呂屋・銭湯の展開−」、前田俊一郎「都市における青年と故郷 −寄宿舎・学生寮にみる同郷者結合を中心として−」、越川次郎「同窓会と故郷 −在京気仙沼高校同窓会の事例から−」、小国喜弘「教育の中の故郷 −一九三○年代 都市における郷土教育試論−」となっている。第三部では、鈴木厚志「地域間交流事業からみた都市と農村 −東京都品川区を事例として−」、松崎憲三「地域活性化への取り組み −UIJターンを中心として−」となっている。

このように各章のタイトルを一読すると、本書が様々な立場・視点から論じられていることが分かる。代表的な同郷者集団である県人会のみならず職業・学業を通じて組織される同郷者集団や、都市における郷土教育で語られる故郷、都市と農村の交流事業、同郷者集団の機能を肩代わりするようなアンテナショップについても論じられているのが本書の特長だといえよう。今後、同郷者集団を論じるにあたって重要な文献となるのではないだろうか。筆者もまた、都市の中の出郷者であり、自らについて様々なことを考えさせられた一冊である。
(宇野田綾子・研究生)


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