大島 建彦編『民俗のかたちところ』
評者:高達 奈緒美
掲載誌:口承文芸研究26(2003.3)  


 本書は、大島建彦氏の東洋大学退職を記念して刊行された論文集である。執筆者は、西郊民俗談話会などにおいて大島氏の指導を受けた、地道で着実な調査によって得られた資料に基づいてきめ細やかな分析を行っていくという、氏の研究姿勢を受け継ぐ人々を中心としている。以下に目次を掲げておく。(中略)

 本書のタイトルおよび章題が、柳田国男が示した民俗学の三分類−目で見る有形文化、耳で聞く言語芸術、心でとらえる心意現象を踏まえていることが、「はじめに」において明かされている。これらには、民俗学の基本に帰りつつ今後を見つめようとする思いが込められており、本書の内容にふさわしく感じられた。この大島氏による巻頭言は、氏の個人的な歩みに留まらず、日本民俗学の歩みを示すものともなっている。

 紙幅の都合ですべてを取り上げることはできないので、口承文芸関連のものにだけ触れておく。長野論考は、水を与えてくれた蛇を殺すという水乞型の蛇婿人譚に対して、恩義に反するような感覚を持った話者が、どのような工夫(合理化)を行っているのかを分析する。山田論考は、富士吉田市に所在する銭湯にまつわる水神伝説について。民間宗教者の託宣や噂話が、地元の郷土意識の高まりのなかで伝説化されていった様相を明かす。小野寺論考は、子供歌(子供の頃に覚えた歌、子供のために覚えた歌)を中心に、歌と個人との関わり、次世代への伝承などについて論ずる。筆者の経験による、歌を採集する際の「コツ」も示されている。唱え言につながる、声自体の呪カに関する常光論考も、興味深いものである。


詳細へ 注文へ 戻る