清水 紘一著『織豊政権とキリシタン』
評者:小川 博
掲載誌:歴史研究(2002.1)


 本書は中央大学の清水紘一氏の長年にわたる日欧交渉史のうち織豊政権とキリシタンについての研究成果である。第一部は「日欧交渉と日本開教」では『鉄砲記』記載の年代の再検討とザビエルの開教のこと、第二部は「織豊政権とキリシタン大名」、第三部は「豊臣政権ときりしたん国」において信長の対キリシタン政策と、豊臣政権における天正十四年の教会保護状と、九州平定と禁教令に関する論考として博多の基地化構想、伴天連追放令の公布形態、長崎の収公、文禄・慶長初年の日西交渉、信長、秀吉、家康の武家政権の天下人による統一君主の神格宣言のありようの考察にいたっている。清水氏は近世日本ときりしたん国の全く相違する歴史的実体のそれそれに共通して垣間見える基本的な物色に注目することにより、俗権(政治・通商)の教権(キリシタン教会・教界、禅仏の宗教界)に対する規定性に注視し、東西にあって全く異質な歴史的存在であったが、そこには王権を尊厳化し、国土支配の自己の正義を主張し対応しているとの説をのべ、近世日本の統一君主は日本の禅仏混淆思想から、その君主は死後の神格を文字通り宣言し、他方、人民には寺請制を基本とする宗門改制度を施行し、生誕から死後にいたるまで、特定宗旨への結合を義務づけて幕末維新にいたるという、近世日本の社会に影響を及ぼした状況は、日本史におけるひとつの外圧としてキリシタンの渡来を史的に考察されて、いくたの先学の学説をひろく検討されており、とくに鉄砲の伝来についての史料である。『鉄砲記』の再検討と、文之玄昌『鉄砲記』の原文と訓読を付けていることは益することがおおきい。


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