土井 卓治著『葬送と墓の民俗』
評者:小川 博
掲載誌:歴史研究(2002.5)


 岡山民俗学会を五十年にわたって育成されている土井卓治先生の労作の集成である。

 土井先生が板碑や葬制について広い研究をされてこられたことは、今までに多くの論考を著わされており、民俗の一般についても多くの成果をあげられているが、本書は八十五歳の記念の書物でもある。

 死者の葬送の墓が人生最後の重大な通過儀礼であり、それは民族の霊魂観、他界観をあらわす民俗であり、土井先生は一九五〇年代に古典ともいわれる柳田国男先生の『葬制の沿革について』を精読され、この方面の研究が未熟で資料の蓄積もすくなく、とくに柳田先生からこの方面の研究をすすめられたことに由来をもたれている。しかし埋葬ではなく地上に放置する風葬や遺棄葬が原始時代におこなわれていたという証明や証拠をあげることは困難なことであったが、土井先生は後世におけるその葬法の残存を推測し、北九州、南西諸島における遺跡を訪ねたり、風葬地であったとみられる土地の名を採集し、イヤ谷、イヤの穴、イヤはほとんど全国的にあることを採集された。本書は一、葬送習俗で棄老伝承と葬地、風葬に関する問題、二、両墓制でラントウ、板碑との関係、三、石塔と墓塔で板碑型式とその変化、源流の再考、四、各地の葬墓制で、近江地方、東北地方、沖縄久高島を、五、岡山県の葬墓制で石塔の造立、種類と年代、新墓の施設と儀礼、小米石の石塔銘を研究されている。土井先生はすでに『石塔の民俗』(岩崎美術社 一九七二年)『葬送墓制研究集成1葬法』(名著出版 一九七九年)の成果がある。かつて両墓制が課題になっていた頃、最上孝敬先生(故人)の『詣り墓』(古今書院 一九五六年)『霊魂の行方』(名著出版 一九八四年)があった。土井先生が各地を妨ねられた野外調査は大変な御努力であった。私もかつて東京都大田区の鵜ノ木にある古いお寺の光明寺の台地の上と下にある基地を訪ねるときに同行したことがあるが、住職は関心がなく居留守をつかわれたことをおぽえている。本書は兵庫県の御影史学研究会の民俗叢書の一冊として刊行されている。


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