佐々木 美智子編『21世紀のお産を考える』
評者:鶴 理恵子
掲載誌:女性と経験27(2002.12)


 本書は、会員の佐々木美智子氏が編者となり、「第一部 男性助産婦導入問題の歩み、第二部 時代の証言」の二部構成となっている。第一部は、導入推進と反対、マスメディアそれぞれの動きを時系列的に整理し、関連する資料類を掲載している。時期的には、二〇〇〇年二月から二〇〇一年七月までの歩みである。第二部は、導入反対運動に積極的に関わった人たち一一人の考えやメッセージが載せられている。会員の刀根卓代氏が「男性助産婦導入問題とマスコミ報道」という一文を寄せている。

 さて、新聞記事のスクラップだけでも、結構根気のいる作業であることは、少しでもそれに類することを経験した人ならば、容易に想像できることだ。本書は、そうした新聞記事はもちろんのこと、全国各地で開催された集会やシンポジウム等の資料、(社)日本助産婦会や国会の関連委員会などへの要望書やそれに対する回答書、導入反対を求める署名用紙……、こうした資料類がほとんどもれなく収集・掲載されている。その資料収集・選択の作業は、たいへんなことであったろうと想像される。

 しかし、その苦労が十分に報われるものとして、きわめて高い資料的価値を持つものに仕上がっていると思う。今回の男性助産婦導入反対運動が、草の根的であればあるほど、それに関する資料類は、体系的に収集・保存される可能性は低く、散逸の危険が大であった。佐々木氏たちの努力により、それらの資料がかなり網羅的に収集できていることは、運動当事者の記録としても、また、その記録をもとに多くの人々がお産について考えていく題材としても、大きな意味を持つ。

 実際、本書をじっくりと読んでいくと、その時、運動に関わった人でなければ入手困難な資料の数々は、「二〇〇〇年男性助産婦導入問題」がどのようにして起こり、どのような経過をたどっていったのかを、読む者にきちんと語りかけてくれる。

 民俗学研究の基本的な姿勢の一つは、ある民俗事象に焦点をあてそれに関する人々への聞き取りを何度も繰り返し行っていくことだと言える。もちろん、そこには、研究者の問題意識や視点というフィルターが存在しているわけだから、そのフィルター越しに見えた事柄が、フィールドからわかったこととしてまとめあげられていく。したがって、「資料が客観的に何かを語る」ということはありえないのだが、それでも、徹底して資料に語らせようとするその方法は、民俗学の大事な姿勢であると思う。そして、その姿勢は、本書にも貫かれている。それは、編者が、民俗学者としてお産に関する事柄を中心に研究を続けてきた佐々木美智子氏であるからだろう。

 私たちは、本書を手がかりに、さまざまな研究を展開していく可能性を与えられた。男性助産婦導入に関心を持つ一般の人たち、民俗学その他隣接諸科学の研究者など、それぞれの問題関心に応じて積極酌に活用してもらいたい本である。

 最後にもうひとつ。本書は、民俗学あるいは民俗学者が現在の問題とどう関わるのか、その問いにひとつの示唆を与えてもくれている。


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