岡田 荘司編『古代諸国神社神階制の研究』
掲載誌:古代文化55-2(2003.2)


 近年の歴史学会における大きな特徴の一つとして、従来宗教史の一分野として扱われることの多かった仏教史、神道史などがその枠から開放され、国家・国制史、更には都城・都市史、地域史などから積極的な発言がなされるようになったことが挙げられよう。つまり、仏教・神道が時代を語る重要なキーワードとなってきているのである。

 ただ、同じ宗教であっても、神道が他の宗教と比べ、明確に区別される特徴は、朝廷が神に対し、神階を奉るという事実である。神社に関しての個別研究は多く出されているものの、国家と神社の関係を端的に示すための基礎的作業となる神階奉授に関する網羅的史料の集成は未だに出されていなかった。本書はそうした状況を背景として編まれたものである。 

 本論は、「総論」「諸国神社神階の概要」の2部より構成され、前者には、岡田荘司氏『古代の神社と神階』、小林宣彦氏『神階奉授に関する一考察―奈良時代を中心にして―』、菊田龍太郎氏『平安時代初期における神階奉授の展開』、加瀬直弥氏『「文徳実録」・「三代実録」に見られる神階奉授の意味』が収録される。

 後者は、宮中・京中から対馬嶋に至る全国に及ぶ神社の神階奉授の実態について述べる。その方法として、延喜式内社及び国史現在社を対象とし、その昇叙のあり方が一目で理解できるようにグラフが用いられる。そして、それを援用するための出典表及び全体的な状況の説明文、それに問題となる個別神社についての解説が付されている。神社の集中する畿内ではグラフが密集し、慣れるまで多少時間はかかるものの、慣れれば神社の動向が他の神社との比較を行ないつつ実感できる仕組となっている。

 国ごとに神社を網羅する編成は、本誌54巻11号の書棚欄においても紹介した同書店出版による『中世諸国一宮制の研究』の方式に倣っている。 グラフは縦方向に位階が、横方向に年代が配され、当然のことながら、グラフの勾配が急な神社は神階授与が頻繁に行われたことを示すものであり、逆に緩慢なものはその逆となる。従って、国家が諸国の神社に対する意識を知る手がかりとなる基礎的なテキストとなろう。基礎無くしての発展はありえない。

 いかに学問的意義が大きく、研究者に益するところ大であっても、採算に合わなければ、出版に到らないという時勢にあって、本書が刊行された意味は大きい。

 平安時代における神祇制度の歴史学的研究をリードしてきた編者の熱意と出版社の深い理解が感じられる一冊である。是非とも座右に備えられることをお勧めする。


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