菊地 和博著『庶民信仰と伝承芸能』
評者:大友 義助
掲載紙:山形新聞(2002.10.8)


 山形新聞、朝日新聞などに、県内各地の民俗芸能について健筆を振るわれている菊池和博先生が、このたび、長年の研究を集成された『庶民信仰と伝承芸能』を岩田書院から上梓された。
 本書は「祈りと庶民信仰」「寺社をめぐる史実と信仰」「伝承芸能の役割と地域社会−獅子踊の実態−」「出羽の特産青苧(あおそ)の生活文化史」の四章と「序章」ともいうべき「概説」から構成され、それぞれの章に数本の論文が収められている。例えば、第一章「祈りと庶民信仰」には「山の神・田の神信仰序説」「御田植神事の共同的性格と史的背景」「庶民信仰における白山の諸相」「星を崇拝する庶民信仰」等々である。

 さまざまな多岐にわたる研究の中で、著者が一貫して追求されているテーマは、これらの庶民の伝統的な信仰なり、民俗芸能なりが、今日の社会においてどのように生きているか、どのような機能を果たしているかということである。

 このことは、第二章「伝統芸能の役割と地域社会」において、最も顕著である。この章には「獅子踊の供養的役割と精霊一体化の思想」「演目・歌詞にみる獅子踊」の二論文が収められているが、両者ともに、単に各地の獅子踊の由緒や演目、芸能、歌詞などの比較研究にとどまらず、それらが今日の地域社会において、どのような機能を担っているかに研究の重点がおかれている。この点は、本書の最大の特色である。

 本書は、著者の研究者としての門出を飾るにふさわしい好著である。今後の大成を祈って止まない。(県文化財保護審議会会長)


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