岡田 荘司古代諸国神社神階制の研究』
評者:嶋津 宣史
掲載紙:神社新報(2002.10.7)


神階制基礎研究の画期的業績

「神階」については、従来より、神祇信仰を考える上で注目されてきた。現在でも神社史研究の立場からの検討や、朝廷の神祇制度の一要素としての位置付け、地方の神社行政への影響等の視点から「神階」は重要なキーワードとされてゐる。

ところが、神階についての諸国個別の研究や、史料の集成は殆どなく、神階研究を進める上で、国別の神階一覧表、昇階図表の作製が長らく待たれてゐた。

編者の國学院大學教授岡田荘司氏は、平成十年に神階研究に着手された。しかし、前述のやうな資料はなく、御自身の手で編集を志されたのであった。

作業としては、岡田教授指導の大学院生に指示し、六国史掲載の神階関連記事をカード化させ、これをコンピュータに入力することから開始された。以後諸国別の史料を収集し、国別の神階研究に着手。五年間にわたる大学院生との共同作業の成果が本書であり、神社神階制の基礎的研究として、将に画期的な業績となった。

内容は、総論(一)として岡田荘司氏「古代の神社と神階」により、平安時代の神祇祭祀制の中での神階の位置付けが明らかにされる。神階制は中央・地方の祭祀制に影響を及ぼし、特に地方神社の序列化は神階制が核になって進められたとしてゐる。

総論(二)小林宣彦氏「神階奉授に関する一考察−奈良時代を中心にして−」では、先行研究の問題点を整理。奈良時代における神階の性格、神階奉授の理由を検討した結果、朝廷による官社統制を目的としておこなはれたものではなく、神の霊験を期待し、それに感謝するために「授け奉る」ことが目的であったと明らかにされた。

総論(三)菊田龍太郎氏の「平安時代初期における神階奉授の展開」は、平安遷都から嘉承年間(七九四〜一一〇八)までの神階奉授の展開を検討。平安時代初期の神階奉授の選定方法には、朝廷側が主体となるものと、在地の国司からの要請によってなされるものがあり、神社行政における国司の比重の高まりが指摘されるといふ。また承和年間(八三四〜八四八)から始めて神階を奉られる神々が増加し、全国的に展開することを指摘し、承和年間が平安初期の神階奉授の転機であると結論付けてゐる。

総論(四)加瀬直弥氏「『文徳実録』・『三代実録』に見られる神階奉授の意義」では、この時代の神階奉授は、国司の要請によるものが主となるが、中央の意志に基づく奉授の場合、大社・明神を意識する傾向があるとする。しかし位階で優遇してゐる姿勢は見られず、神階による序列化の意識はなかったといふ。またこの時代、三位以上の奉授が増加することを指摘し、斎衝三年(八五六)に規定された三位以上神社の祭祀者把笏制の影響を指摘する。すなはち当該神社の神職が笏を持つことによって、朝廷の威厳が明示されることになり、神階は神事の明確な威厳付けの規準として重視されることになったといふ。

次に、本書のメインである「諸国神社神階の概要」である。その内容は凡例によると、@「項目一覧・地図」において奉授件数、被奉授神祇数、初出記事、最高位神祇等の一覧と地図を示し、A「グラフ」において集成表のデータに基づき、天長十年(八三三)〜仁和三年(八八七)について、横軸に年代を、縦軸に神階をとって示し、神階上昇の過程をグラフ化。B「集成表」において六国史・『類聚国史』にある叙位記事を年代順に収録してゐる。

また、国別の全体的な状況と、個別神祇の概説が掲げられてをり、神階昇叙の過程を、視覚的に追跡できるやう配慮して編集されてゐる。

神道史、神社史、特に古代の神祇制度について関心を持つ方々に本書をお勧めしたい。(神社本庁録事)


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