市川 秀之著『広場と村落空間の民俗学』
評者:植野 加代子
掲載誌:御影史学論集27(2002.10)


 本書は、題名の通り村落空間である広場や会所を中心に、村落においての役割や機能を検討されたものである。また、本書は著者が大学院の時に初めて執筆し、温めてきたテーマである広場と村落空間の関係を十五年もの間調査に基づき執筆した集大成の論文集である。

 内容の構成は、以下のようになっている。(中略)

 まず序章では、一九八〇年代に盛行した村落空間論の研究がその後停滞したのは、枠組みの曖昧さや歴史性の軽視であることを指摘している。そして、著者はこの克服が本書の目標であり、地域歴史民俗学的な視点で研究を行なったことを述べられている。

 第一章では、村落空間の中心として位置付けられている広場のことである。儀礼や祭祀における広場の役割を検討し、村落共同体との関わりを考えたものである。

 次に第二章では、会所いわゆる集会所という建築としての広場をとりあげ、歴史性を探っている。集会所といえば、第一に寄合いをする場であることが考えられる。しかし、寄合いをする場所といっても、野外・個人宅・宗教施設である社寺や堂や庵・伝統的な集会施設など多種多様である。そして、寄合いの場所がムラの社会的な中心の場所であることを指摘されている。

 そして第三章では、ある地域の儀礼・祭祀・御旅所などの特定な問題をとりあげ、村落空間との関わりを詳細に考えている。

最後の第四章では、一つのムラに焦点をあてるのではなく、ムラを越えた広域な村落関係を分析している。

 以上のように、空間と社会の関係性についてあらゆる角度からの資料を収集し分析されている。中でも、近畿地方を中心としたフィルドワークによる事例は徹底的なものである。また、調査だけではなく、地域歴史の中で民俗学を考えている点が著者の特色でもある。

 現代社会では、都市化が進み村落祭祀など「ムラ」とのつながりが少なくなってきた。そのため村落空間というものがひと昔前より忘れがちである。そうした中で、著者の成果は今後の研究者に偉大な研究資料として活用されるとともに影響を与えることと思われる。


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