倉石 忠彦著 『年中行事と生活暦−民俗誌への接近』
評者:鈴木 通大
掲載誌:日本民俗学229(2002.2)


 本書は、タイトルが示すように年中行事と生活暦などを中心にまとめられ、しかも民俗誌への接近という刺激的なサブタイトルがついている。その目次構成は、次のようになっている。(中略)

 著者が指摘するように、民俗資料調査報告書や民俗誌の中に「年中行事」の項目について必ず一章が割かれているが、この意義についていろいろと議論されることがなかったように思われる。著者は、最初に年中行事の問題点として大きく次のような三点をあげている。第一に、単独で孤立した形で扱われている年中行事は、時には生業との関係で捉えられているが、年中行事の全体系との関係で捉えられず、個々の事象において捉えられていることが多いこと。また、季節との関係も不明確であり、しかもその地域の風土と生産労働の過程とを無視していること。第二に、ほとんどが信仰儀礼の要素を持つものばかりであるが、信仰と必ずしも結びつかない自然暦や作業暦、また信仰的なリズムが呼び起こした他の民俗に目を向ける必要がないのかどうかということ。そして第三は、古い姿を復元することのみに関心があり、現在の生活をあまり捉えようとしていないのではないか。したがって、古いものばかりに目を向けるのではなく、現在の生活をも対象にする必要があることを、指摘している。著者は、これらの視点に立脚して、年中行事と民俗誌との関係や年中行事の取り扱いについて、体系的に解説している。

 また、「長野県の年中行事」として、地域社会における具体的な年中行事や正月行事のモノグラフを丹念に紹介している。さらに「生活暦の試み」および「民俗都市の把握」と題して、興味深い内容について論及している。とくに、前者では年中行事と生活暦との関係、生活暦の内容、生活暦の構造、生活暦の変貌などについて、後者では、民俗的世界の把握や都市における民俗調査などについて、触れている。

 本書は「年中行事」を正面から取り上げることによって、それを通して生きた「民俗」というものを考え直そうとしている意欲が読者に伝わって来るようである。さらに、背後に横たわるデータの蓄積が著者の説を力強く裏付けているといえよう。


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