北川直利著『ミッション・スクールとは何か』
評者・井門正美 掲載誌・秋田さきがけ(2000.5.29)

 著者は秋田市の聖霊女子短大付属中・高校教諭。カトリック系学校に勤める著者が、宗教社会学の立場から十五年間に及ぶ常駐参与観察者としての記録をまとめた。
 教師や生徒の大半が非キリスト教徒であるというわが国ミッション・スクールの存在意義とは何か。著者はこの問いから、まず法的・制度的検討や歴史的考察を行い、その構造的側面を把握する。そして、異教の地においては「無名のキリスト者」を理念とする浸透型の教育によリミッション・スクールの未来が拓(ひら)けるであろうことを示唆する。
 とはいえ、教育する側の教職員にキリスト教信仰にかかわる相違がある以上、理念に基づく教育が可能かどうか、疑問が残される。そこで著者は、カトリック学校の教職員を対象に意識調査(サンプル数約千二百、質問項目七十八)を実施し、この実証的データをクロスさせながらキリスト教教育の可能性を探索している。
 データの分析やそれに基づく議論は多岐に渡るため割愛し、ここでは一例のみ紹介したい。著者は回答者をおのおのその信仰からキリスト教、神道・仏教、無信仰などの下位集団に分類し、調査校三十六校におけるこれらの集団力学的関係により「カトリック学校の四類型」(キリスト教的意識優越型、無信仰的意識優越型、勢力均衡・分散型、仏教的・神道的意識優越型)を導出する。その上で、各類型に応じた学校経営論を展開し、キリスト教教育のとるべき方途を具体的に示している。
 本研究の方法と議論は、ミッション・スクールを宗教社会学の研究対象としたことのみならず、教育学の学校経営論からみても新鮮で興味深い。万人向きの本ではないが、ミッション・スクールの教職員や関係者、ならびに社会学や宗教学、教育学などの研究者にはぜひとも勧めたい一冊である。
 最後に著者は、自身が非教徒であることに言及している。本書の根底には異教徒である著者のカトリック学校における存在への問いがある。自称「日本教徒」によるキリスト教徒の長き「対話」の所産が本書なのである。(井門正美・秋田大助教授)

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