鈴木哲雄著『中世日本の開発と百姓』
評者・小林一岳 掲載誌・地方史研究294(2001.12)


 本書は、日本中世史研究における最重要キー・ワードである「開発」及び「百姓」について、新しい視点から本質に鋭く切り込んだ研究を積み重ねてきた筆者によりまとめられたものである。以下目次を掲げる。
(目次省略)
 既発表論文をあつめた論文集の形をとっているが、補論や付記を駆使したていねいな編集により、全体を通してたいへん論点が理解しやすいつくりとなっている。また、徹底的に在地や地域に根ざした目線から、中世開発の実態及び中世百姓の土地との関わりや、その法的身分等についての検討をした点が本書の大きな特徴となっている。
 筆者による緻密な実証を通じて、中世開発は未開墾地の開発ではなく、荒廃地の再開発及び農業技術の「集約化」として明確化され、さらに中世百姓の土地への関わりが請負(作)関係であったことが明らかにされた。そしてそれとともに、いくつかの新たな課題が浮かび上がってきたといえよう。
例えば、「土地所有」という近代的権利概念で百姓と土地との関係をとらえないとするならば、百姓と土地との関係はどこに、何を媒介として規定されてきたのか。筆者のいう「請負(作)関係」が有する権利・義務関係の具体的な様相や、それにもとづく中世百姓の権利意識はどのようなものなのか。それは領主との関係をどのように規定し、どのような形で権利擁護・実現への闘いへ結びつけていくか。さらには、中世百姓と近世百姓の権利意識は同じなのか違うのか等、本書の成果により、今後考えなければならない重要な謀題が次々と生れてくる感がする。
百姓を基軸にして社会を考えるという、基本的な点であるにも関わらず、最近忘れられがちな観点の重要性を再認識させる本書は、地方・地域から歴史を見ることを重視する研究者にとって必読の書と言える。
 なお、筆者の歴史教育に関わる著書として『社会史と歴史教育』(一九九八年五月刊 岩田書院)が出版されている。筆者の研究が経験豊富で独創的な歴史教育実践に裏打ちされていることがよくわかる書である。本書と同時に読まれることを強くお勧めしたい。

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