市川秀之著『広場と村落空間の民俗学』
評者・久田邦明 掲載誌・ドリコム・アイ236(2002.1)

 この本は、日本の伝統に根差した公共性とは何かを考えるための手がかりを与えてくれる。
 主題とされる広場は「人が集まり交換するための特定の空間」と規定されている。利用する主体に即してこれを分類すれば、集落的広場(共同体的な広場)、都会的広場、支配的広場という3つの類型に分けられる。集落的広場及び都会的広場は人々のものであり、支配的広場は支配者と被支配者によって構成されるものである。
 広場の歴史は縄文集落の中央広場のところまでさかのぼることができるという。これまで広場は、ヨーロッパの都市との比較で検討される傾向があった。そのせいで、その不在を嘆くことにもなったが、都市的広場と別に集落的広場という類型へ目を向ければ、それが間違いであることが分かる。日本の場合にも広場の歴史的系譜をたどることができるというのである。
 そればかりか「御旅所」(大阪府南河内郡河南町)の事例のよっに集落的広場が都市的広場へと展開するプロセスをみることもできるという
 考えてみれば、かつて学校も地域社会の広場であったといえるだろう。そこは人々が寄り集うところだった。また、戦後誕生した公民館は、新しい国づくりのための広場となることが期待されていた。今日、開かれた学校づくりや学社融合が提唱されるなかで、学校や公民館などの地域施設が、新しい時代に相応しい広場としての役割を担うことができるのかどうか。いや、この本が示唆するのはこのうような教育的関心の範囲に止まらない。大きく変貌したわたしたちの暮らしのなかで、公共性をつくりだすための市民活動のヒントを教えてくれるものなのである。
従来の民俗学の方法に疑問をもち、行政職員(大阪狭山市教育委員会勤務)の立場で「研究の社会性」を追究する著者の視点と方法が注目される。
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