笹本 正治著『山に生きる』
掲載紙:信濃毎日新聞(2001.8.23)


 豊かな独自の文化 活性化の原動力に

 信大人文学部教授で、日本中・近世史が専門の笹本正冶さん(四九)がこのほど、これまでの山村をテーマにした研究論文をまとめた「山に生きる―山村史の多様性を求めて―」を出版した。研究を通して見えてきた山村の文化の豊かさを広く一般に知らせることで、過疎化の進む山村に元気を取り戻してほしいという願いを込めた論文集だ。

 「県内の山村は今、過疎化で元気がない。このままでいいのでしようか。山村には豊かな独自の文化があることを、私たち研究者が伝えていかなければと思うんです」。戦国大名や川中島合戦などの研究で知られる笹本さんだが、山村研究も卒業論文以来、一貫して取り組んできた大切なテーマだ。

 本書には、卒業論文に加筆したものから最近の書き下ろしまで、十五本の論文を収録。現在の生活の場である長野県と、出身地である山梨県の山村を研究フィールドに、中・近世の山村の人々が従事した林業、運送業、商業、鉱業の実態などを幅広く考察しているのが大きな特徴だ。さらに、民俗学的な視点と手法によるアプローチも積極的に試み、祭りや伝承、食文化などの研究を通して、現代の山の暮らしの多様性も浮き彫りにした。

 山村での暮らしは、笹本さん自身の原点≠ナもある。父親は林業に従事していたが、歴史の教科書に出てくるのは農業の話ばかり。農業中心の歴史観に疑問をもち、自分の生まれ育った世界は何なのだろうと考えた時、当然のように研究のまなざしは山村へと向かったという。

 「フィールドから研究材料をもらうだけでなく、何かお返しをしなければ」。講演会に招かれたのが縁で、三年前からは飯山市の小菅地区の地域おこし活動に加わった。戸隠や飯縄と並ぶ修験道の霊場だった小菅の歴史や文化を再認識してもらうための講演会や、小菅神社に伝わる火祭りの意義を考えるシンポジウムを企画するなど、地元の人々と共に精力的に活動している。「地元の人々に故郷の文化の大切さや魅力に気づいてもらい、地域を活性化する原動力にしてほしい」と話していた。


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