横山 篤夫著『戦時下の社会―大阪の一隅から―』
評者:大谷 渡
日本教育新聞(2001.8.10.17合併号)


 著者は、高校の歴史の先生。平和への祈りを込めた教育実践を通して、地域の現代史から重い事実を一つひとつ掘り起こした。

日米開戦の一年後、大阪府岸和田市に官立大阪普通海員養成所が開設され、校舎は軍需優先で閉鎖された岸和田紡績本社工場が使われた。全国から集めた十四歳を超えたばかりの少年を下級船舶要員として訓練すのが目的だった。

海員は通常、一年かけて養成されたが、ここでは三ヶ月、さらには二ヶ月に短縮して、少年たちに叩き込んだ。甲板掃除・マスト登り・石炭撒き。殴られながら雑役を覚えさせられた。

 岸和田で養成された少年海員の総数は五千百三十九人。終了と同時に粗製濫造の輸送船に乗せられ、戦場の海に投入された。ほとんどはアメリカ軍の攻撃により海の底に沈められた。著者は、奇跡的に生き残った一人の少年海員を半世紀後に捜し出し、悲しい史実を浮かび上がらせる。

 関西国際空港の対岸、泉佐野市には、かつて陸軍佐野飛行場があり、敗戦までフル稼働していた。ここで訓練を受けた陸士第五十七期生のうち九十一人が特攻作戦で戦死。

 証言者をつきとめ、資料を入手し、実態を解明していく手法は見事である。空襲、在住朝鮮人、学徒勤労動員なども調査した。時には生徒が調査に参加した。現代史の教育と研究の一つの手本だ。


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