任章赫著『祈雨祭―雨乞い儀礼の韓日比較民俗学的研究―』 
掲載紙・韓国文化261(2001.8)

 祈雨祭。一般的には「雨乞い儀礼」と言ったほうが分がりやすいだろう。旱魃などの際に、雨が降るように祈る儀礼(習俗)である。古くは国家(王)がおこなう儀礼であったが、民間に広くおこなわれるようになり、世界各地に分布する。
 本書は、任章赫氏が、筑波大学で学位をとった博士論文をもとに、その後の成果を加えて出版したものである。筑波大学での指導教官は、故宮田登氏と、比較民俗学研究の第一人者である佐野賢治氏である。者者は日本留学中は、両氏の指導のもと、雨乞いに関する日本の歴史資科を探り、フィールドワークをかさね、調査報告書を丹念に調ベ、韓日の雨乞い儀礼の比較のための基礎的データの収集につとめた。そして帰国後は、韓国文化財管理局・国立文化財研究所・国立民俗博物館に勤務し、韓国での事例収集につとめていた。
 さて、本書の内容であるが、全体を三章に分かつ。まず序章で研究課題と視点を示し、第一章では王権と雨乞いの関係を、第二章では災因の論理と儀礼との関わりを、第三章では生業を異にする地域社会における雨乞い習俗の違いについて論じ、最後に、まとめと今後の課題を述べる。
 第一章の王権論では、韓国の王と日本の天皇とで、雨乞い儀礼がどのように違うかを、神話を比較することにより明らかにする。第二章では、民間における雨乞い儀礼を、ムーダン(巫者)の役割を中心にして、災因論の視点で捉える。そして第三章では、従来あまり注目されてこなかった水田農耕民以外の雨乞い儀礼を検討する。
 それぞれの章で、韓日のデータを提示し、それを比較検討することによって、韓日両国での雨乞い習俗のもつ意味が、より明らかになるという、まさに比較民俗学の成果がよくでている労作である。日本の雨乞い儀礼については、高谷重夫氏の『雨乞い習俗の研究』(一九八二年)という大著があるが、韓国の雨乞い儀礼についてまとまった著作は本書が初めてであり、韓日を比較検討した書も、もちろん本書が初めてである。今後の雨乞い習俗の研究は、本書を抜きにしては考えられないだろう。

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