本四郎著『町場の近代史』
掲載紙・山梨日日新聞(2001.7.1)

 
第25回野口賞(郷土研究部門)受賞(山梨日日新聞社・山梨放送・山梨文化会館主催)
「地域に元気になってほしいし、自信を持ってほしい」−。自らの研究に込めた思いをこう語る。受賞対象となった著書「町場の近代史」(岩田書院刊)は、近代日本の黎明(れいめい)期に、地域で中心的な役割を担った「町場」の姿を追った。谷村町、宝村、禾生村など都留市をフィールドに研究。「中央の動きの単なる地方版、全体と部分の開係としての地域ではない」(同書)、生き生きとした都留の人々の姿を浮かび上がらせた。
 第四章は「町場にできた株式会社と経営者たち」。一九○○年代初め、谷村町に相次ぎ誕生した馬車鉄道、電灯、銀行などの株式会社設立の経過、経営内容などを分析した。この中で、多くの会社役員が町会議員も務め、政治と経済が密着した「町場」の様子を指摘。この構図を「町ぐるみで株式会社の設立、地域経済の活性化、近代化が進められた象徴」(同書)と位置付け、新時代を迎えて「中央」の押し付けではなく、住民自らの力で地域をつくり上げようとしていた意思を読み取っている。
 「明治前期の家族と村落」「地域のなかの町場と商工業者」「財閥資本と地域社会」「地域の課題と町村財政」「学校と地域社会」。各章とも都留の史料を丹念に読み解き、近代の「町場」の姿を探っている。
 都留文科大に二十一年間在職。市史編さんや大学運営などにも尽力した。専攻は近世史。近著には「西鶴と元禄時代」がある。専門外≠ナの業積が評価されての受賞に「面はゆい思いもある」という。だが、「町場の近代史」は「思い入れが強い仕事」と語る。「定年を迎えた時、市民にお返ししなければと、強く思った。そして地域との二十一年間の証(あかし)を残したいと思った」
 「地域」ヘの強い意識から執筆された「町場の近代史」。同著はまた、人々が地域にアイデンティティーを求めようとする時に、歴史学は何ができるのかという、命題への答えにもなっている。
 「谷村町の株式会社の例もそうだが、地域の人々が主体性を持ち、歴史ともかかわっていたことを認識してほしい。それが自分たちを元気にする源になるし、地域の土台づくりにもなる。地域の主体性、自主性に自信を持ってほしい」
「地方の時代」「地方分権」と言われる時代。「町場の近代史」は、現代に投じた都留の地域史からのメッセージでもある。
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