横山 篤夫著『戦時下の社会―大阪の一隅から―』
評者:田中 はるみ
掲載誌:『15年戦争研究会報』(2001.5)


「泉南地方を中心とした地域社会の15年戦争下の姿を探求する」。高校の歴史教育にたずさわる著者が、現場の必要から1980年代後半にスタートした研究は、歳月を経て、大阪における近現代の戦争と民衆という領域にまで広がった。フィールドワークや聞き取り調査には、生徒が参加する時もあり、教育の実践が研究成果につながっていた。

 本書は著者がこれまでに発表した論稿のほか、各章に書き下ろし論稿が収められている。第1章「大阪南部の空襲」では、泉南地方の空襲の全体像と地域社会の実態を明らかにし、第2章「大阪泉南地方の戦時動員と教育」では、泉南地方にあった海員養成所と陸軍飛行学校・飛行場の実際を検証した。『毎日新聞』1997年8月12日付朝刊記事は「関空対岸悲劇の舞台 特攻機6機沖縄戦へ出撃 旧陸軍佐野飛行場『利用されず』の通説、高校教諭が覆す」と大きく報道していた。また第3章では、旧真田山陸軍墓地をめぐって戦没者と地域社会のかかわりを考察し、これは大阪だけでなく、近代日本の軍用墓地全体の意味を問うものとなった。そして第1章・4章で被差別部落と在阪朝鮮人の問題を取り上げ、戦争における加害と被害の関係についても地域社会のなかで掘りおこした。

 著者が「はしがき」の註でふれているのだが、鹿野政直氏が黒羽清隆氏を評していたのと同じく、著者ご自身が「研究」と「教育」と「運動」の三位一体を具現しておられるのではなかろうか。

 高校の教員である著者が、授業をすすめる過程でうかんだ疑問や問題意識にもとずいて調査,研究された成果の集大成が本書である。研究者だけでなく、若い方や歴史教育にたずさわる中学・高校の教員方にも読んでいただきたい。ところが専門書であるため、まことに高価になってしまい、個人では手が届きにくいと思われる。会員の方には、是非お住まいの地域にある公共図書館などに本書の推薦をお願いしたい。


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