稲雄次著『佐藤信淵の虚像と実像』
評者・秋田さきがけ新聞(20014.1)

 思想と人物像を考察
 現在の羽後町に往まれ、江戸時代後期に農学や農政、政冶経済、哲学、兵学、国防など広範囲にわたる著作を残した思想家を研究、歴史的な位置付けを図り、その人間像も探っている。これまでの独立した論考三編を一冊に収めたもの。
 「父祖五代の家学」とされた著作は、佐藤家農政経済学の集大成「農政本論」をはじめ二百五十部七百五十八巻に及ぶという。筆者はこれらを読み解いていき、信淵の思想には「当時の幕府や藩という枠内で論じられていた社会改革論ではなく、日本全体を富国させ、よって人民を救済せんとした」という大きな特徴があり、こうした国家観などで明冶以降、「偉人」「巨星」と称賛されたとする。
 その一方で、家学とは実は信淵一人の作ではないかと言われた所以(ゆえん)や、「実学」の内容などを検計。著作に誇張などの部分もみられると指摘する。
 本書は、評価が二分されているととらえる筆者が、信淵を全肯定あるいは全否定することなく、思想家としての先見性と限界を正確に見定めるベきだというのが本旨であろう。信淵の魅力については「構想のスケールは抜群、クリエイティブでユニークな思考力」とも語る。
 諸藩で弊政改革に寄与したという信淵の記述をもとに、その足取りを追うなど、「虚像」と「実像」を次第に浮き彫りにしていく論考であり、一種"なぞ解き"にも似ている。

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