都市と祭礼研究会編『江戸天下祭絵巻の世界』

評者:赤麺麭
「芸能史研究」193(2011.4)

 本書は、江戸の祭礼と町人のかかわりを調査・研究する都市と祭礼研究会が、文政八年(一八二五)の国会図書館蔵「神田明神御祭礼御用御雇祭絵巻」、「山王祭之図」(以下、「天下祭絵巻」とする。)をテキストとして、平成一九年(二〇〇七)四月から平成二二年一二月まで毎月開催された附祭研究会の成果をまとめたものである。

 「天下祭絵巻」には、同解説で福原敏男が「広義の附祭」と述べている「神田祭出し三六番組構成町とそれ以外の町による御雇祭」のうち後者にあたる「狭義の附祭」が描かれている。本書はこの「天下祭絵巻」に描かれた五組の御雇祭を中心として、文政期の神田祭の実態を紹介したものである。前半では、福原による「天下祭絵巻」の紹介と解説、そして美術史や芸能史など、当時の関東都市祭礼の特徴に迫った論考を三編収めている。また本書には、「天下祭絵巻」に描かれた御雇祭をも含めた「広義の附祭」が描かれた同年制作の「神田明神御祭礼御免番附」(千代田区立千代田図書館蔵)の紹介および解説がなされている。さらに最後には文政八年の神田御雇祭の史料である、同絵巻に付属する「神田明神御用祭 踊子芸人名前書留」と「秋山家文書」(埼玉県行田市・秋山金右衛門家蔵)の紹介および解説、そしてそれぞれに論考が入れられている。前者の書留は御雇祭での各演目の長唄・浄瑠璃の詞章、踊子や芸人の詳細が記された書留、そして町名主に宛てた「差上申一札之事」からなる。後者の秋山家文書は御雇祭の高砂町に町屋敷をもっていた秋山家に伝わった七通の古文書である。この秋山家文書からは文政八年の神田祭への高砂町のようすを知ることができる。

 本書は文政期の神田祭に特化した研究ではあるが、同時期の川越氷川祭礼や前橋祇園祭礼との比較も試みられており、当時の文化や流行など、関東やそのほかの地域の都市祭礼を把握するうえでも貴重な一資料だといえよう。


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