横田 健一著『日本古代の文化と国家』 |
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評者:嶺岡 美見 | |||||
「御影史学論集」36(2011.10) |
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御影史学研究会歴史学叢書四冊目となる本書は、本会名誉顧問である横田健一先生の単行本において未収録であった古代史に関する論文を編集したものである。 お祝いの言葉 (田中久夫) 第一章 大和時代の文化と国家 第二章 古代紀伊半島の祭儀 第三章 律令時代の国家 第四章 奈良時代の豪族の登場 第五章 国家と仏教 解説 まず第一章は大和時代に関する論文を収めている。横田先生は大和時代とは「大和朝廷の成立より大化改新までの時代」、つまり「三世紀後半ないし四世紀初頭より七世紀末頃」までと定義されている。第一節では血縁ないし擬制血縁、地縁、農業の共同体の発展、そして変遷の背景を論じられている。さらに母処婚制についても触れられている。第二節では古代中国の史料と比較されながら、日本上代の武器の分与について考察をされている。特に天智三年における各氏への武器の賜与は、その前年の白村江における日本軍の大敗が関係すると考えられているのである。第三節では、『古語拾遺』の「平国広矛」の記事について、祭儀用などの事例をもとに考察されている。 第二章は熊野地方を中心とする紀伊半島における古代の祭儀や伝承についての論文を収めている。第一節では神倉神社の御神体である「ゴトビキ岩」の下から出土した銅鐸について考察がされている。神武による大和朝廷開創以前の熊野には、かつて銅鐸を祭器とする勢力があり、これと神武東征伝説との関係を論じられている。第二節では新宮市の速玉大社の祭りで登場する神児人形が背負う茅について注目し、中国古典『周礼』などや全国各地の民俗事例から検討されている。『周礼』によると、茅は神の方代(カタシロ)、あるいは依代(ヨリシロ)として用いるとある。第三節では神武東征伝承の背景を熊野との関わりから論じられている。さらに熊野鉱山、出雲と日向との関係からも考察されている。 第三章は律令時代の国家・文化・政治の基本問題についての論文を収めている。第一節は大学での日本史概説の要約である。国家社会または文化の基本的性格について論じられている。律令国家の国力となった班田収授法施行、さらに大化改新の歴史的意義について述べられている。第二節では改新の基本思想について述べられている。官僚貴族の礼儀尊重、形式崇拝の思想がより強くなったと指摘されている。また、当代貴族の芸術意欲の表現が理想主義的写実であるのは、律令政治の理念に通じるものがあるとされている。 第四章は、奈良時代より新たに登場する豪族に関する論文を収めている。第一節では律令制盛期である七、八世紀を女帝の世紀とし、女帝が政治的・文化的影響をどのように及ぼしたのか考察されている。さらに称徳天皇以後、女帝の存在が必要とされなくなった理由として、藤原氏の外戚としての地位確立が新しい時代を形成していくからだと述べられている。第二節では天武紀元年に記された「屯田司舎人」について、中央と地方の豪族、さらに天皇や東宮との関係から考察されている。あわせて大化改新で一旦廃止されたはずの屯田が再び復活した理由について論じられている。第三節では藤原不比等を通して、天武・持続朝政界における藤原氏の地位と実力を考察されている。さらに不比等伝の史料とその成立事情についての問題点を論じられている。第四節では和気氏の氏寺である神護寺創建の史上意義を、神願寺・高雄寺との関わりから考察がされている。 第五章は仏教関係、とくに寺院経済についての論文を収めている。第一節では『大安寺伽藍縁起并流記資財帳』から浮かび上がる資材に関する問題を考察されている。さらに寺の国家的地位ないしは、国家において果たす機能の変化について述べられている。第二節は、法隆寺・大安寺・元興寺の伽藍縁起并流記資材帳が一斉に奏上された問題を、当時の政治上・仏教統制上の背景から論じられている。第三節では中世の神話の発展・変化、そして神祭儀礼の変遷について、仏教の影響をもとに考察されている。 本書の特徴は、厳密な史料批判に基づく文献史学の方法をとりながら、さらに考古学・文化人類学なども取り入れ、考察されているところである。古代史研究において基本書となる一冊である。ぜひ手にとって、一読していただきたい。
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