鈴江英一著『キリスト教解禁以前』
評者・寺島敏治 地方史研究289(2001.2)


 本書は長年にわたりキリスト教史に関する研究を進める鈴江英一氏(国文学研究資料館史料館教授)の切支丹禁制の高札撤去にかかわる研究の普及書である。
 本書は本題の通り一八七三年(明治六)いわゆる洋教禁止の「高札撤去」=解禁布教とは直ちにならないという基本的立場に立つ。その上でその撤去¢O、後における状態の段階的推移を外務省文書、開拓使文書などを駆使して論じている。
 その「以前」問題は、幕末の一八六七年(慶応三)の関西諸藩への浦上キリシタンの配流から起こっている。一八七一年(明治四)条約改正をめざし岩倉具視特命全権大使一行(使節団)は船で米欧をめざす。アメリカヘ渡航する船中でこの問題について日本バッシングが始まる。アメリカ合衆国でも欧州諸国でも使節団に対するバッシングは統く。使節団はこれで条約改正どころではなくなる。使節団にとってこの問題は国際問題化していることに気付かざるを得なくなる。使節団の一行は米欧の近代国家として進んだ法律、産業技術、機械など諸文物の視察吸収へ専念する立場へと転換しなければならない状態になる。
 その「以後」の問題は使節団の帰国後「高札撤去」の「解禁黙許」→「禁教緩和」→「禁教政策の終息」(共に本書のキーワード)へと至る。つまり一八七六年(明治九)の外務省内部における禁教政策の放棄までの過程を先にあげた文書を使い論じている。
 政府−開拓使側では使節団帰国後、いわば諸外国勢力を背景とする宣教師の活動を「黙認」せざるを得なくなり、各地で捕縛事件も続くがその「緩和」ヘと傾斜する。この時期国内外の問題山積の中で政府はついにこの政策を一旦終息させる方向が得策と判断するにいたる。
 この問題に対する本書のキーワードは「政府の舞台裏≠とく」となろうか。
本書の章節構成は次の通り。
(目次省略)
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