伊藤邦彦著『鎌倉幕府守護の基礎的研究』

評者:熊谷隆之
「日本史研究」578(2010.10)

 本書は【論考編】【国別考証編】の二冊からなる。【論考編】第二部が既発表論文で、残りはすべて新稿である。

【論考編】
第一部
 序 問題の所在
 第一章 鎌倉幕府「東国守護」について
 第二章 鎌倉幕府守護制度の成立
 第三章 鎌倉幕府守護の職務(権限)
 第四章 鎌倉幕府守護管国統治機構
第二部
 第五章 鎌倉幕府京都大番役覚書
 第六章 上総権介広常
 第七章 比企能員と初期鎌倉幕府
 第八章 安田義定と遠江国支配
 第九章 鎌倉時代の小串氏
 第十章 室町期播磨守護赤松氏の〈領国〉支配

【国別考証編】
第一部 「東国守護」
 第一章 東海道(遠江以東)
 第二章 東山道(信濃以東)
第二部  「西国」守護
 第三章 東海道(三河以西)
 第四章 東山道(美濃以西)
 第五章 北陸道
 第六章 畿内
 第七草 山陰道
 第八章 山陽道
 第九章 南海道
 第十章 西海道

 以下、新稿部分について紹介する。
【論考編】第一章では、当初の東国を守護不設置とし、守護に比定されてきた面々を「国務・検断沙汰人」として把握。第二章では、三田武繁説とは別の角度から「文治国地頭」の存在を否定し、平家追討戦と源義経・行家追捕を目的に「惣追捕使」制度が展開し、源頼朝初度上洛後に「守護」制度が成立したと理解する。第三章は、(大犯)三箇条・軍役指揮・御家人統率・検断権・裁判権・行政事務、そして第四章は、職員(正員・守護代など)・守護所に関する詳密な分析である。
 【国別考証編】はその名のとおり、国ごとの守護任免考証で、【論考編】の論拠を構成する。
 佐藤進一『増訂 鎌倉幕府守護制度の研究』(東京大学出版会、−九七一年、初出一九四八年)の刊行以後も、当該期守護に関する新たな史料や知見は、さまざまな論者や媒体によって数多く提示されてきた。それらをにわかに通覧するのは、かなりの困難をともなうのが現状である。
 そうしたなか、本書の目配りは、佐藤進一著の刊行後に見出された史料はもちろん、近年の論考、例えば二〇〇八年の拙稿(本会大会報告)にまで及ぶ。反面、史料や論考の若干の漏れが散見する点は、むろん、落度とすべきではあるまい。著者の史料や論考の周到な把握にもとづく着実な考証に学びながら、その責は、学界全体の活発な議論のなかで果たされていくべきであろう。
 鎌倉幕府守護研究が、必ずしも盛んとはいえぬ状況のなか、今後、この分野の研究で必ずや参照されるべき二冊を、我々はえた。本書の大半をなす新稿部分を一気呵成にまとめられた著者のご尽力に対し、心から敬意を表するとともに、既発表論文の逐一に触れえなかったことをお詫びしたい。
 最後に、鎌倉幕府守護に関する再検討に引き続き取り組むことを約し、紹介の任を終えたいと思う。


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