桐原邦夫著『士族授産と茨城の開墾事業』

評者:斉藤 茂
「地方史研究」350(2011.4)

 本書の構成は次のようである。

 序章 本書の視点と構成
第一編 秩禄処分と士族授産政策
 第一章 秩禄処分の実施
 第二章 水戸藩の秩禄処分と授産政策
 第三章 麻生藩の秩禄処分と授産政策
第二編 士族開墾事業の展開
 第四章 明治政府の開墾政策
 第五章 茨城県内の士族開墾事業の概観
 第六章 弘農社の士族開墾事業
 第七章 波東農社の士族開墾事業
 終章 士族開墾事業の歴史的意義

 茨城県農業史・茨城県史編纂に携わり、県内の近代経済史の研究を進めてきた著者は、日本の急速な近代化に果たした士族の役割を大きく評価し、士族が近代化の担い手となるためには封建家臣団の解体=秩禄処分が不可欠であるとする。そして、茨城県内で行われた秩禄処分と士族授産としての開墾事業を取上げる。

 第一編では新政府による秩禄処分の実施過程を見、県内旧藩の士族の状況を分析し、次いで県内最大の水戸藩と最小の麻生藩を取上げて秩禄処分と荒蕪地開墾政策を論及する。 第二編では明治政府の開墾政策を概観し、県南を主として展開した九の開墾事業について個別に進捗状況と成果を述べ、特に弘農社と波東農社にしぼって事業の推進者・計画・資金・組織・成果を詳述する。開墾は大農法と農牧混合経営の「泰西農法」を採用したが、自然条件に適合せず、事業は大敗に終わる。事業そのものは失敗したが、開墾地は小作地として貸出され、寄生地主制の下で農業生産の拡大・進展の契機となったとし、「本源的蓄積」として機能したと評価している。
 今まで見過ごされ、研究の空白部分であった士族開墾事業の意義を積極的に評価した研究で、農場を囲む地域の問題も生き生きと取上げている。


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