近藤直也著『松浦さよ姫伝説の基礎的研究−古代・中世・近世編−』

評者:内藤浩誉
「口承文芸研究」34(2011.3)

 葬送儀礼研究に勤しみ一環となる弔い神楽を調査する過程で、説経節「まつら長者」に出会い、またそれがオロチ退治と年忌供養の間に介在することに辿り着いた著者が、地元・肥前国松浦郡における「さよ姫伝承」の基礎資料を博捜、古代・中世・近世の六八史料を紹介しつつ、ルーツを探り変遷を辿る。
 「松浦さよ姫」は、『万葉集』巻五「松浦がた佐用姫の児が領巾振りし山の名のみや聞きつつ居らむ」(山上憶良)が初出であるが、基盤となる『肥前国風土記』の「弟日姫子」伝承以後の書誌から一点ずつ追いつつ比較する中で、「摺振」「入水」「石化譚」「鏡宮」「蛇交譚」を鍵とするさよ姫に関する物語の展開をみつめる。伝承の受容・変化を丁寧に押さえ分析しながら、時間に伴う誤記や書き換え、解釈の醸成による多様性が見られることを指摘、幅のある流布の様相を明らかにする。一地域で発生した伝説が時空を越え広く派生・定着する経緯のみならず、文芸の影響や本質を考察する一例として、本書は評価されよう。


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