四国地域史研究連絡協議会編『四国の大名−近世大名の交流と文化−』

評者:山本秀夫
「地方史研究」352(2011.8)

 本書は、平成二一年一一月二一日に、香川県立ミュージアムにおいて開催された、第二回四国地域史研究連絡協議会研究大会シンポジウム 「四国の大名−大名の交流と文化−」(同ミュージアム『徳川四天王 井伊家の至宝展』関連事業)での報告を含めた成果を一書にまとめたものである。本シンポジウムについては、本誌第三四三号の「動向 学会活動」にて、清水邦俊氏が参加記をよせておられる。なお、四国地域史研究連絡協議会は、「四国−その内と外と−」を共通論題とした地方史研究協議会第五八回大会が高松市で開催されたことを契機に発足した団体で、年一回研究大会を開き、第一回は松山市にて「四国遍路」をテーマに行われた。

   一 本書の構成(副題は省略)

 プロローグ      (胡  光)
 第一章 四国の大名       (胡  光)
 第二章 阿波蜂須賀家の交際    (根津寿夫)
 第三章 土佐山内家と譜代大名・旗本       (渡部 淳)
 第四章 高松松平家における大名間交流      (御厨義道)
 第五章 伊達宗城と有志大名の交流        (藤田 正)
 第六章 近世大名の交流と文化          (胡  光)
 エピローグ                   (胡  光)

 一書にするにあたり、シンポジウム報告である第二章から第五章を中心に、概要と討論の記録を第六章に編成し、序論・総論にあたるプロローグ・第一章・エピローグを新たに加えている。

   二 本書の内容

 第一章では、四国の大名配置について豊臣政権下・徳川政権下のそれぞれの特徴を、初出の、四国を一括する大名配置図や変遷表なども駆使して、明らかにしている。とくに、朝鮮出兵における「四国衆」の動きと四国の大名配置を考える視点が新たに提示されていることは興味深い。
 第二章では、徳島藩主蜂須賀家の交際関係を列挙した「御一門様御続書」(国文学研究資料館蔵)を考察することで、蜂須賀家の交際を総体としてとらえている。両敬などの関係は相互的で、蜂須賀家は、その関係を流動的かつ柔軟にとらえていたと指摘している。
 第三章では、土佐藩山内家の借金銀をめぐる大名・旗本の融通関係について考察する。
 藩主と家臣あるいは家臣同士で交わされた書状の分析から、融通の背景にある経済的関係だけでなく、政治的人間関係にも目を向けるべきであるという指摘には目を開かせられる。
 第四章では、高松松平家と彦根井伊家の交流の具体相や儀礼の次第をめぐる情報交換を考察している。「当主による大名交流観」や「自家の幕府への奉公理念」にまで、その論究は及んでおり、刺激的な論稿である。
 第五章では、宇和島藩伊達家と交流が深かった水戸藩と土佐藩を事例に、天保期以降の大名家の交流のあり方を考察する。家格や縁戚にかわり、藩政の改革志向や異国の日本浸出に対する危機意識を同じくする大名家同士の交流が存在したことを、往復書簡などから明確に指摘している。
 第六章は、討論の内容を編集したものである。個々の大名家の研究に加えて、四国四県の報告者が集まって他の家のことも考えてみる、初めての機会となった意義を確認できる内容である。

   三 本書の特徴

 本書は、「多くの方々に平易に読んでいただくために」史料や参考文献引用を必要最小限にとどめながら、写真や図表を充実している。加えて、私が一番感銘したのは、エピローグにての胡氏の「…(高松大会後に)副次的に誕生した新しい研究団体は、常に「四国」をテーマに研究活動を行い、情報を共有するとともに、各県の研究会へ他県の研究会員が参加し、それぞれの研究会を活性化させていくという、一過性の全国大会にとどまらない、地方史・地域史発展の新しい道を切り拓いたのである。」との言である。本書は、「シンポジウムに関わる論稿・討論の記録ができたよ」的ではなく、地方史・地域史研究の方向性を考えさせられると同時に、同会の今後の研究成果が楽しみになる、本当に読みやすく・読みごたえのある一書である。是非、みなさんも御味読いただき、「四国」を「その内と外と」から考える機会としていただきたい。


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